ツバキの話

  じゃあ、私から始めましょうか。

  ・・・・・・ひとつ、作り話をしましょう。
  私、こわい夢を見るのよ。
  それは、暗い夜道での出来事を映した夢なの。ほんとうに真っ暗な夜道なんだけど、街灯がぽつり、ぽつりと立ってて光ってる。それが余計に不気味でね、しかもその道、私は通ったことないはずなの。既視感のかけらもないのよ。それにどこか無機質な道で、周りにあるのはコンクリート製の壁ばかり。街を模した迷路・・・・・・そんな感じだった。そこを家を目指して歩いている。そんな夢。
  こわいのはここから。歩いてる途中、なんだか嫌な感じがして後ろを振り向くの。そうすると離れたところを女の人が歩いてる。何色だったかよく思い出せないのだけど、ワンピースを着てるの。そして長い黒髪の人。その人が私以外誰もいない道を歩いて来る。何だか少し不気味に感じて、早く家に帰りたくなって足を早めるんだけど、嫌な感じは消えない。だからまた振り返る。女の人はさっきと変わらない距離でこっちに歩いてくる。怖くなってついに走り出したわ。走って走って、しばらくして止まる。夢の中だからかしら、一切疲れず走り続けられて・・・・・・それで後ろを振り返った。
  いなかった。女の人はいなかったのよ。ああ良かったと思ってまた歩き始めるんだけど、でもね、なぜだかまだこわいのよ。だから十字路のところで、壁からそっと顔を出して横の道を覗いてみたの。
そうしたら、いた。女の人は私と同じようにしてこっちを覗いていた。しかも笑ってた。口元しか見えなかったのだけれど、不気味な笑顔だった。
  また一目散に走り出したわ。持っていた携帯電話で家族に連絡をして、助けて、迎えに来てって悲鳴みたいに叫びながら。それからまた逃げ続けて、家族に迎えに来てもらった。すごく安心したわ。・・・・・・でもね、女の人はいつまでも私を追ってきた。家族といようが、なんだろうが追ってくる。私は逃げ続けて、どんどん心が疲弊していく。だって、いつまで逃げても真っ暗で朝にならないし、女の人はどこにでも現れて私は走って逃げるだけ。家にたどり着くことさえできない。心がすり減って、もう捕まってしまいたいと思うと目が醒めるの・・・・・・。
  ね、嫌な夢でしょ。でも昨日、終わったのよ。この夢。昨日夢の中で女の人に肩を掴まれて、それで終わり。きっと今日は見ないわね。そういえば、昨日で初めて女の人の顔を見ることができたの。
  私と同じ顔だったわ。
  ・・・・・・全部、作り話よ。







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