迷子の迷子の……?



うーん、と唸ってみても彼は来ない。子供をあやすのはソーヴィストの役目のはずなのに、今ここに彼はいないのだ。泣き叫ぶ子供にを前に、泣きたいのはこっちだという気になる。とはいえ本当に泣くわけではなく、どうしようもなくて立ち尽くしているだけなのだが。

「弱ったな……」

幸い周りには誰もいない。自分が泣かせているとは思われないし、おろおろしているところを見られて笑われることもない。ここでソーヴィストが通りかかってくれさえすれば万事解決なのだが、そう上手くいくはずもないだろう。

所謂『変顔』をしてみたり昔話を聞かせてみたり、とにかく必死に泣きやまそうとした。……が、悉く不発に終わっている。笑わせるどころか、逆に不安を煽ってしまっているようだった。

子供とは何と難しい生き物なのか。どこかにそんな思いがあったのだろう、溜息となって出てしまった。一瞬止まったかに思えた泣き声は、恐怖という形で大きなものとなって瞳と口から零れ落ちた。

「う、わ……! ごめん、泣くなよ……!」

そうはいっても相手は子供。聞く耳持たぬといった様子で喚き散らす。本当に今は人手が欲しい。誰でもいい、この際ソーヴィストでなくてもいいから通りかかってほしい。誰かがいてくれれば心強い、精神的にも随分楽になるだろう。

「大変そうだねぇ、ピスちゃーん?」
「……空耳?」

人手が欲しい欲しいと思っているから幻聴がするのだ。少し心を落ち着かせて深呼吸して……。

「いないいないばぁぁぁ」
「うわぁぁぁっ!!」

飛び跳ねて驚くピスティーノに大爆笑のキャラット氏。子供も驚きで涙は引っ込んだようだ。

痛いほど強く心臓が動いている。深く息を吐き、目の前でにやついている男を睨んだ。

「ごめんごめん、睨まないでよぉ」
「今悩んでて油断してんだから驚かすなって……」

また溜息を一つ。今日は十分間に一回のペースで溜息をついている。名誉のない新記録だ。それを思ってまた溜息をつけば、その元凶であるキャラットが苦笑する。

「ピスって本当によく溜息つくよねー」
「誰のせいだと…………はぁ、まああんたのせいではないね」
「本当にどうしたの? ……ここにいる子が原因?」
「まあね……どうしようかと思って」

近くに親がいないから迷子であることは明白なのだが、親を捜すにしても泣きやませなければ始まらない。四苦八苦していたところにキャラットの登場は、ある意味で救いだったのかもしれない。あまり期待はできないけれど。

「迷子かぁ……僕もピスもあまり子供は得意な方じゃないからねぇ。ソーがいれば苦労はしないんだろうけど」
「そうそう、何でこういう時いないかなぁ……でもキャラが来てくれて助かったよ。僕だけじゃいつまで経っても何もできないままだった」
「期待されても困るなぁ。まあでも泣きやんだみたいだし、とりあえず親捜しする?」
「だね。ここにいたって仕方がないし」

子供を一瞥し、顔を見合わせながら苦笑いを浮かべた。さらなる問題に直面したのだ。子供をここからどうやって連れ出すか。今まで泣き続けていたのだから、そう簡単についてくるとは思えない。次なる試練は、子供に信用してもらうことだ。

「ぼ、僕お名前は?」
「…………」
「ごめんねぇ、このお兄さん怖いよねぇ。僕はキャラット、キャラって呼んでみようね」
「……やだ」

子供とキャラット、二人の間に不穏な空気が流れる。満面の笑みに影が差したように感じてしまうのは気のせいだろうか。この子供とキャラットは、どうやら相性が悪いらしい。火種がこちらにまで回ってこないよう祈ったが、無言の圧力によって叶わないものとなった。君が何とかしてよね、君の責任だよ、早くも責任転嫁だ……先が思いやられる。確かに迷子を見つけたのはピスティーノだが、一緒に捜すと決めた時点で責任は分割されたはずなのに。

「家はどこにある? 連れていってあげるから教えてくれないかな?」
「変なおじさんにはついていっちゃ駄目って言われてるもん」
「おじさっ……!?」
「ぷっ……!」

思わず噴き出してしまったキャラットを一睨みし、苦笑いで子供に向き直る。相手は子供なのだから、その程度のことでいちいち反応していられない。人様の子供に失礼があってはならないと慎重に扱ってはいるが、笑顔の中にも苛立ちが見え隠れ。眉間の皺が彼の心情を物語る。

「言うこと聞きましょうねぇっ」

キャラットに頬を抓まれ、子供の顔は見る見るうちに歪んでいく。そして、また。

「うわぁぁぁぁん!!」

耳を劈くような奇声。これほど上手く表現できたことが果たして今までにあっただろうか。

「……あったかもしれないけどそれが問題じゃないさ」
「何言っちゃってんのーピスちゃん」

現実逃避しようとする脳を何とか留め溜息をついた瞬間、頭上に鈍い痛みが走った。

「お前、何をやっている」
「そ、ソー!?」

落ちたのは拳、立っていたのはソーヴィスト。待ち望んでいたはずの相手なのに、今は一番会いたくなかった。何故なら……子供が泣いており、キャラットが遠くに逃げている状況だからだ。ソーヴィストは完全にピスティーノが泣かせたと思い込んでいる。こういう時の彼は危険だ。

「子供相手にこれは一体どういうことだ……!」
「ソー兄ちゃーん、このおじさんが苛める!!」
「は!?」
「ピス……!」

この迷子の少年、ソーヴィストの知り合いだったらしく、その後五時間に及ぶ説教が待っていた。そして元凶であるキャラットと少年だが、仲良く手を繋いで家路に着いたらしい。生意気にも舌を出しほくそ笑む少年の姿が目に見えるようで、説教中赤くなるくらい拳を握っていた。







某交流サイトにて炯様にリクエストしていただいたものです。
キャラットさん、ピスティーノさん、ソーヴィストさんをお借りしました。
シチュエーションの指定はなかったので、いろいろ冒険してみた結果、
ギャグっぽい何か、になってしまいました申し訳ないです……。
そしてソーヴィストさんの登場が少なくて申し訳ないです……。
どうしてもソーヴィストさんには説教していただきたかったので……!
炯様、リクエストありがとうございました!







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