直視出来ないワケを教えて



足が震える、手も震える、ついでに言うなら涙腺崩壊寸前だ。コワもての長身高校生達が四方を囲み、逃げられないという、平凡高校生である辻本理輝には恐ろしすぎる状況。

どうしてこうも運が悪いのだろう。平凡な毎日を過ごしていたいだけなのに、どうしてカツアゲなんてされなければならないのだろう。非凡は非凡同士で喧嘩していてくださいよ、そう思ってしまい慌てて取り消した。小心者故に脳内でさえ無意識のうちに謝ってしまう。

「聞いてんのか? 財布渡せっつってんだよ」
「渡さないと、ちょっと痛いことになるかもよー?」
「わ、わっ、それは……!」

財布を渡したところでこの場を収拾することは不可能だ。何故か。それは財布の中身が残念だからだ。先程切らしていた文具を買い揃えたため、残金たったの百二十五円。これで目の前に聳え立つ壁達が許すはずもない。

「どうすんの? 俺らあんまり気長い方じゃないんだよね」
「殴るなり蹴るなりして奪うこともできるんだけど」

これを渡せば隙は作れる。その間に逃げられるかどうかが問題ではあるが、なりふり構っていられるような状況でないのも確か。ここを乗りきればまた平凡な生活を営めるのだ。全財産を犠牲にしても助かるなら……。

そう考えた瞬間、目の前に鮮やかな銀が現れた。絹糸のように繊細な髪が風に揺れる。

「そいつに、触んな」

至近距離で不良が一人、宙を舞った。大袈裟かもしれないが、この表現が一番正しいと理輝は思う。

「紅谷、先輩……」

平凡な毎日を送っていたはずなのに、何故か最強と謳われる不良、紅谷蓮と関わりを持つようになっていた。関わっていてもそれはそれ、恐怖が消えるわけではない。あの不良達を一瞬にして地に這い蹲らせた彼を、怖いと思わないわけがないであろう。

「あ、あの……ありが……」
「行くぞ」
「へ!? あ、あの……!?」

衝撃映像に持っていた鞄を落としてしまっていた理輝。それを蓮はさも当たり前のように拾い上げ先を行く。時々振り返り隣りを歩くよう合図されるが、ついていくので精一杯な理輝にはそれはできない相談だった。

しばらくの間、無言が続いた。いつもとそう変わらないのだが、居心地の好いものではない。気を遣ってしまうし、何より、何を考えているか分からなくて怖い。小心とは何て不便な性分だろう。

「おい、」
「は、はいぃぃ!」

突然かけられた声に、出す声は裏返る。恥じらいなど覚えている場合ではない。蓮を怒らせないようにすることが平凡生活への第一歩なのだから。

「何でそんな後ろ歩いてんだ」
「いいいえ! その! お、おお追いつけないと言いますか足が絡まっ絡まって転びそうかもと考えてしまうと言いますか……!」

もう自分が何を言っているのか自分自身でも理解できていない。必死に紡ぎ出した言葉も相手に伝わっていなければ意味はない。自分にも上手く伝わらないことが他人に伝わるはずもないだろうに。

「で、ありますからして僕は僕でそのっ」
「理輝、」
「は、はははい! 自分は理輝であります! ……て、あれ……?」
「隣りを歩け。また絡まれたらどうする」

何か、顔が熱を持つのを感じた。よく分からない感情が心内を行ったり来たりする、駆け巡る。

(あれ、何でかな……先輩の顔、上手く見れないや)

今まで以上に直視できなくなった彼の横顔。覗き込むように盗み見ると、視線がぶつかった。

……そんな、気がした。







一周年のお祝いとして、葉瑠さんに贈ったものです。
蓮君と理輝君をお借りしました。
口調とかお互いの呼び方とか、完全に私の妄想です←
蓮君と理輝君の組み合わせって、最強の不良平凡だと思うの!←←
……すみません、でも本当なんです、この二人大好きなんです、愛しt
改めまして、葉瑠さん、一周年おめでとうございました!







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