少年Kの苦悩、少女Kの憂鬱



「僕、アンタが分かんない」
「は?」

面と向かって、それも初対面でこんなことを言われたのは初めてだった。『アンタが分からない』……それはこちらの台詞でもあるのだが。

「何でニコニコしてんのかなーって思って」
「……そういうアンタは仏頂面だよな」
「仕方ないっしょ、こういう顔なの」

新宮高校の受験日。席に着いて勉強していたら、いきなり声をかけてきた。第一印象は、変な奴、そして目付き悪い……だった。タレ目のくせになんて目付きをしているんだ、そう思った。

その『彼』は啓の前の席に着くと、小さく息を吐く。

「ねぇ、何でここ受けようと思ったの」
「え……何でって……友達もここ、受ける……から?」
「へー」

どうでもよさそうに返すと、大きな欠伸を一つ。興味がないなら初めから聞かなければいいのに、と啓は眉根を寄せた。

「友達いるんだ?」
「そりゃ、いるよ」
「ふーん。何で欲しいって思ったの? 必要なの、それ」
「それ、って……友達がいたら毎日が充実してて、楽しいと思うけど」
「へー」

またどうでもよさげな返事だ。

「僕には分かんないなぁそういうの。いたことないし、作る気もないし」
「ふ、ふーん……?」

友達いないだろうなと思ったのは間違いではなかったようだ。思っていることを何でも口にしてしまう性格は、万人に受け入れられるものではない。『彼』自身も、友達をどうでもいいものと思っているようだから、今後も作れないんだろうなと思ってしまう。

「でも、友達はいた方がいいと俺は思う」
「僕には必要ないものだと思う」

ぴしゃりと、言いきられてしまった。

何というか……考え方が他人とは少し違っているんだろうなと思った。よく見れば進学校の制服を着ているし、受験直前だというのに教科書すら開かないなんて。余裕なのか、それともどうでもいいのか。どちらにしても、頭の良さを見せつけられているようで面白くなかった。

「その制服、例の進学校のだろ?」
「ああ、そうだね」
「何でここ受けるんだよ? 公立なり私立なり、もっと偏差値の高いところ受ければいいのに」

疑問に思い聞くと、またもや間髪入れずに返答が返ってきた。冒険してみたかった、だそうだ。進学校に通う奴の考えは分からない。

「抗ってみたかったんだよね。小学校も中学校もお受験だなんだって親の決めたとこ入れられてたから。高校生活まであいつらに縛られたくない」
「す、すごい考え方だな……」
「そう?」
「少なくとも俺にはその考えが理解できない」

溜息混じりに呟くと、向こうも同じく溜息を漏らした。

しばしの沈黙の後、『彼』はいきなり鞄を持って立ち上がった。これがどういう行動なのか理解できず目を瞬いていると……。

「名前教えて」
「は?」
「だから、名前」

名前、とは。名前を聞くのに立ち上がる必要はないはずなのだが。そうは思ったが、指摘すると後が面倒そうなので黙っておくに限る。

「楠野魏啓」
「どんな字書くの」
「植物の楠に、野原の野、魏は……っと、こんな字」
「ああ、昔の中国の名前ね」

何だ、ここでもエリート面か。啓は歪んだ笑顔を向けた。本人に悪気がないからタチが悪い。

「僕は近藤花梨。近藤は普通に近藤で、花梨は花にナシね」
「え、まさか女……」
「まさかも何も女だよね」
「は、はぁ!?」

完璧に男だと思っていた啓は、素っ頓狂な声を上げてしまった。教室中が二人に注目する。視線が刺さる、いたたまれない。

彼、改め彼女は、立ったまま数秒何かを考える素振りを見せた。そして一人で納得し、さっさと教室の出入口へと歩き出してしまう。

「ちょ、ちょっと近藤さん!? もう受験始まる……」
「飽きた、帰る」

教室を出ていってしまった彼女を、見送ることしかできない。呆然と扉を見ていると、帰ったはずの彼女が顔を出した。

「じゃ、そういうことで。またね啓さん」
「え、ちょ、は!?」

嵐のようだった。完全に置いていかれた子犬状態で、しばらく突っ立ったままだった。

(変な奴……)

彼女の印象は後にも先にもこれだけ。一度しか会っていないが、あまりの強烈さに脳裏に焼き付いていた。正直なところ、彼女のような人と友達にはなりたくない。身が持ちそうにない……試験中も、考えたものだ。

それから数ヶ月後、凛秀学園の生徒が行方不明になったと聞き、もしかしたら彼女なのではないかと思ってしまった。それは彼女が突拍子もない人間で、一度こうと決めたら絶対に曲げない頑固な一面を持っていることを、直感的に悟っていたからなのだろう。







花柳さんに相互記念としてお渡ししたものです。
啓さんをお借りしました。
唯依を描いていただいたので唯依とのコラボの方がいいかと思ったのですが……
書かせていただきたいなぁと思った啓さんが現代っ子さんだったので、
バランスを考えてリンと絡んでいただきました。
元気っ子な啓さんと無気力っ子のリンで、調和がとれていたのではないかなぁと。
丁度イニシャルがK同士だったので、こんなタイトルにしました。
花柳さん、相互ありがとうございました!







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