金欠なの
カリン「ぬぬぅ……」
イル「あれれ、どうしたの? 唸るなんてとても君らしい愉快な行動だけど」
カリン「あ、イル……あのね、お金がないんだぁ……」
イル「金欠、ってこと?」
カリン「そうそうそうなのそう! 欲しいものがあるんだけど……買えそうもないの」
イル「君は金遣いが荒いからね……考えて使ってないでしょ」
カリン「うっ……そ、それはそうだけどでも……うん、無駄使いしてる」
イル「僕のを貸してあげたいけど、生徒同士の金銭やり取りは禁止されてるからな……兄弟なら問題ないはずだからクラ君に借りたら?」
カリン「クラウドも……持ってないみたい」
イル「兄弟揃ってか……それはそれは……」
カリン「先月もエデン先生から借りたから……返す当てもないのに何度もは申し訳ないもん……」
イル「そういえばアル君も今月厳しいって言ってたなあぁ」
カリン「アルスも?」
イル「うん。彼も考えなしに使うタイプだからね。これじゃあユークス先生も大変じゃないかな」
カリン「生徒の管理は自分の仕事だから、って全部自分で立て替えちゃうもんね」
イル「僕はわりと貯金あるから困らないんだけど……」
カリン「いいなぁ! 私貯金も仕送りもないから大変なんだよ……」
イル「まあ僕もそう変わらないんだけどね」
カリン「えっ、そうなの!?」
イル「仕送り一切ないよ。できるわけないじゃないか、一族壊滅状態なんだから」
カリン「いっ……一族壊滅って……!」
イル「あらら、信じちゃった? 嘘だよ嘘。もしくは冗談」
カリン「ひどいよイルっ」
イル「あはは、ごめんごめん。でも仕送りないのは本当だから」
カリン「どうして仕送りがないの?」
イル「特に理由はないよ。貯金あるから仕送り必要ないし。毎月金だけ送ってもらうのも悪いしね」
カリン「そっかぁ……さすがイル、大人だね!」
イル「僕まだ十八だよ」
カリン「精神的に大人なのっ!」
イル「それはどうもありがとう」
カリン「うーん……皆お金の管理どうしてるんだろう……?」
イル「確かにそれは気になるところだね」
カリン「多分ね多分ね、ラウトは常に一定のお金は財布に入ってると思うっ」
イル「ああ、キルバス公は金銭管理も厳しそうだ。君は彼の部屋に入ったことがないから知らないだろうけど、彼の部屋はすごいよ。ホコリ一つない」
カリン「うえぇぇっ、すごいっ。私なんかすぐに散らかしちゃってアグノとあわあわ言ってるのにっ!」
イル「しかも彼の場合は常に同じ場所に同じものがないと落ち着かないんだ。1mmでもずれたら気付く」
カリン「こ、細かいんだね……」
イル「そういう意味でならアグノちゃんもしっかりしてそうだけど」
カリン「うーん……」
イル「あれ、意外な反応。即答かと思ってたのに」
カリン「アグノも片付けられないタイプみたい。最初知った時は意外だったなぁ……あ、でもお金には困ってないみたい。いつもこーんな大きな封筒いっぱいにお金が送られてくるもん」
イル「ああ、なるほど。彼女は…………うん、そうだろうね」
カリン「ええっ何何何何!?」
イル「彼女は裕福な家庭で育ったってことさ」
カリン「よく分からないけど、アグノのお家はお金持ちなの?」
イル「金持ちといえば金持ちだろうね。……規模が違うけど」
カリン「い、意味深……」
イル「まあ気にしないでよ。多分彼女は隠しているつもりだろうし」
カリン「う、うん……あ、そうだ! リートはどうかなっ? リートって何にでも真面目だし、すごい管理の仕方をしていそう!」
イル「……ああ、彼女はそうでもないと思うよ。彼女じゃなく『あちら側』が管理しているはずだから」
カリン「あ、あちら側……?」
イル「君は知らなくていいことだよ。君にはずっと愉快痛快な子でいてもらいたいからね」
カリン「う、ん?」
イル「彼女の場合勝手に金を使えないんだよね」
カリン「何で何で? それってすごく可哀相っ」
イル「そうかな? それはそれでいいんじゃない? ……そうだカリンちゃん。そろそろ国史の授業始まるよ」
カリン「ん? うわわわわっもうこんな時間なの!?」
イル「いってらっしゃーい」
カリン「イルも出なきゃダメだよっ」
イル「はいはい」
イル「どこまでも不器用なんだろうね……僕も、彼女も。…………何かに縛られながら生きるって、そんなに簡単なことじゃないんだけどな」
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