土方があの蔵に入ってから、半刻が経過した。その間、外で待っていたリンは、あまりの暇さに眠ってしまっていた。気付いた時には、すでに辺りは夕焼け色に染まっていたのだった。

リンだって、何も土方に構ってほしくて待っていたわけではない。土方に命じられて、ここにいるのだ。そうでなければ、いくら土方を尊敬していても、これだけ長時間に渡って待っていることなどできるはずもない。

時折響いてくる呻き声が、『中で行われていること』の壮絶さを物語る。

(さっさと喋っちゃえばいいのに)

誰だってそう思うだろうが、如何せん、あの男は仲間意識が非常に高い。ここに入れられてから二日経ったが、未だに口を固く閉ざしたままだという。

死の淵に立たされた者にしか味わえないような、苦痛を通り越した先にある『いたみ』。それを表す叫びが耳を揺さぶった。次いで、何やら話し声が聞こえてきた。戸を隔てていては、何かを話している、ということしか分からず、内容までは入ってこない。聞き耳を立てていると、会話がやみ、土方が出てきた。その後ろに一瞬見えたのは、生気を失い、焦点の合わない瞳でこちらを見つめている古高の姿だった。

「待たせたな」
「いえ……それで、話って何ですか?」
「まあ待て。歩きながら話す」

首を左右に動かし、息を吐き出す土方の顔には、疲労の色が見えた。そして、確かな勝利への色も。

「お前に仕事をくれてやる。総司達と出ろ」
「え、それ本当ですか!? いいんですか!?」
「嘘言ってどうすんだよ。……本当は巡察に出すつもりだったんだが、状況が変わった」
「状況が……?」
「……古高が吐いた」

その言葉に心がざわつくのを感じた。古高が吐いた、それはつまり……。

「俺は近藤さんにその旨を伝えてくる。お前は隊士達に声かけとけ」
「え!? あ、ちょっ……土方さん!」

焦るリンの呼び声を無視し、土方は局長室へと姿を消した。

これは、テストの問題より難解だ。土方から聞かされたのは古高が吐いたということだけ。それだけの情報で、リンに不信感を抱いている隊士達が動いてくれるとは思えない。

頭を抱え歩いていると、前方から本城が歩いてくるのが見えた。その隣には斎藤。なかなかに珍しい組み合わせだ。

「あら、堂君」
「……どうも」

会釈をすると、満面の笑みが返ってきた。その隣の人物は、相変わらず物思いに耽っているようだ。

「土方さん……ですか?」
「うん。あ、もしかしてもう終わっちゃった?」
「えっと……今、局長室で近藤さんと」

その一言で、二人の顔色がさっと変わった。古高の一件で何か進展があったと悟ったのだろう。さすがと言うべきか、話が早くて助かる。

「それで、広間に集まってほしいらしいです」
「そう……分かったわ。他の隊士には私達から声をかけておくから、貴方は先に広間へ行って?」
「え、でも……」
「そうした方がいい。隊士達に声をかけづらいから、そうやって悩んでいたのだろう」
「それを知らない土方君が貴方に押し付けたのね。まったく、土方君ってそういうことには鈍いんだから」

二人に、リンの考えはお見通しらしい。よく分かりにくいと言われるのに、態度と表情だけで見破ってしまうなんて驚きだ。少し、嬉しくもあった。当たり前のように自分の考えを読み取ってくれる人。自分を『見てくれる』人。今まで、そんな人は誰一人としていなかったから。

リンは二人に一礼し、表情を引き締めた。広間へと走り出す。

あの人達の役に立ちたい。土方だけでなく新選組の役に立ちたいと、そう思い始めていた。

next...





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