ずっと、考えていたことがある。副隊長である貴方と、やっと席官になれた私なんかが、一緒にいていいのかなって。
釣り合っているなんて、思うこと自体が大きな間違いなんだ。

−貴方の隣に、私なんかがいていいのかな、だから−


「やっぱり、私じゃ、駄目なんです・・・だから、」
「だから別れようってか、」


ふざけんなよ、


低く、落とされた言葉に、なまえの体が少し強張った。
檜佐木の雰囲気が変わったのがわかったなまえは、一歩、後ずさった。とん、と背中に冷たい壁の感触を感じたなまえはしまった、というように背後の壁を見た。なまえの視線が外れたその瞬間、檜佐木はなまえに詰め寄り、なまえの両手首を頭上で一纏めにすると、唇を奪った。
息もできないくらいの、激しい口づけ。なまえは息継ぎもできず、されるがまま檜佐木を受け入れるしかなかった。
そんな檜佐木についていけるはずもなく、なまえの体は力が抜け、立っていられなくなってきた。
完全に力が抜け、抑えられている腕に支えられる状態になったのを見て檜佐木はようやく唇を離した。

平均よりも小柄で、力の抜けたなまえの自由を奪うのは赤子の手をひねるようなもので、なまえの両手首を片手で纏めたまま反対の手を首に添え、顔を固定すると、首筋から鎖骨へと唇を滑らせた。


「っ・・・」


ときおり、歯を立てると、なまえの口から吐息が零れる。
いつだって、優しく触れてくれていたのに・・・。
いつもの檜佐木からは想像もつかないような行為に背筋が凍った。

歯を立てた場所に、舌を滑らせる。

「や・・・っ」

なまえはぎゅっと目を閉じ、行為に耐えた。決して、核心には触れず、ひたすらに唇でなまえを弄ぶ。

強く閉じられた瞼。その端には涙が溜まっていく。
その涙が零れてしまったら、きっと、これ以上触れられなくなるから。


まだ、だ。

まだ、

どうせ終わるくらいなら、いっそ、一生忘れられないような、そんな記憶を、刻んでやりたい。


檜佐木はなまえの瞼を手で覆った。−彼女の涙を、見ないように。


−俺が、どれだけ愛してるか、どれだけお前に溺れてるか・・・

教えてやるよ、−


どれくらいの時間が経っただろう。


「も・・・、やだっ・・・」


本格的に泣き出してしまったなまえに、我に返った。全身から血の気が引いていく。


−やってしまった−


もっと他に伝える方法はあったはずなのに。
頭に血が上って、我を忘れてしまった。

彼女のことが大切だから。触れるときは、今までしたことがないくらいに、優しくしようと思っていたのに。
優しく、触れていたのに。


「もっ、いや・・・・こわ、いっ・・・」
「わ、わるい・・・」


自分でも驚くほど、謝罪を告げた声は情けなかった。なまえは泣き続けたまま、何も答えない。
体を離し、掴んでいた手首を離すとなまえは床に崩れた。


「悪かった・・・」


檜佐木がなまえを立ち上がらせようと手を差し伸べると、パシッと乾いた音が響いた。なまえが、その手を拒絶した。
檜佐木は、振り払われた手に、言葉を失くし、茫然とする。


「や、だっ・・・檜佐木、さんっ・・・なんて、嫌いっ・・・」


嫌い、その言葉が重たく心に圧し掛かる。


・・・当たり前だよな、こんな強姦まがいのことをして、嫌われないわけねぇ・・・−檜佐木は心の中で自嘲した。

拒絶された檜佐木の手が力なく下ろされる。
やってしまったことは後には戻らない。檜佐木は握り拳に力を込めながら、ゆっくりと口を開いた。


「お前が別れたいって理由が、もう、好きじゃなくなったっていうなら、考えてやる。けど、立場を気にしたものだとしたら、許さねえ・・・。副隊長とか、席官とか、そんなの関係ねぇよ・・・」


本当に、好きなんだ。


「なまえ、愛してる・・・」


力のない、弱く弱く吐かれた言葉に、なまえはようやく顔をあげた。
そこには、見たことない程の、泣きそうな顔をした檜佐木がいた。


「・・・嫌いに、なるはず・・・ないじゃないですかっ・・・」
「だったらっ・・・!」
「こわいのっ・・・不釣合いだって、なんでお前があの人の隣にいるんだって、言われて・・・。だけど、何も言い返せなくて・・・思ってたから、自分でも。だから、言葉にされて、実感させられて・・・」
「馬鹿野郎・・・。そんなもん、気にしてんじゃねぇよ。俺は、お前がいいんだ。お前に傍にいてほしいんだ・・・」


檜佐木はその場に膝をつき、なまえと目線を合わせる。
なまえは、赤く潤んだ目で檜佐木を見つめる。
ちらりと手首に目をやると、ついさっきまで自分が握りしめていた跡が赤く残っている。
赤く腫れた目、手首の跡に、檜佐木は罪悪感を感じさせられた。

もう一度、ゆっくり手を伸ばす。
なまえの頬に触れそうな距離になったとき、なまえはびくりと体を強張らせたが、拒絶はしなかった。そして、そっとその頬に触れる。


「もう二度と、こんなことしねぇから・・・許してくれ・・・」


しばらく檜佐木の目を見つめたあと、なまえは、こくりと、頷いた。
おずおずと、伸ばされた手は、檜佐木の背中に回され、そのまま、なまえは檜佐木の胸に顔をうずめた。
檜佐木も今度は優しく、そっと、なまえを抱きしめた。



愛が故





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はい!鬼畜とはなんぞや!
リクエストくださった光様、大変長らくお待たせしたうえに、ご希望に添えず申し訳ありません!
管理人力不足のため・・・このような結果になってしまいました!
リクエストしてくださってありがとうございました!
こんな管理人ですが、これからも精進していきますので、よろしければまた足を運んでやってください!