普段、並校の生徒が行き来する廊下は現在ざわざわと沢山の人が入り乱れている。
それもそのはず、今日は並校祭、一般公開日なのだから。

なまえはメイドの衣装に身を包み、クラスの出し物のプラカードを持って行き交う人々を眺めていた。
するとそこへ燕尾服を着た綱吉がやってくる。

「なまえ?」
「なに?」
「大丈夫?ぼーっとしてたけど…疲れた?」

心配そうに声をかける綱吉になまえは人々を眺めながら答える。

「んー、恋人のこと考えてた」
「えっなまえ恋人いるの?!」
「あれ?言わなかったっけ?」

こてん、と首を傾げるなまえと驚き目を見開く綱吉。

「初耳だよ!」
「そっか、じゃあ今言った」
「なにそれ!」

軽く笑う彼女にひたすら突っ込みまくる綱吉をみてまた笑うなまえ。

「もう…あ、じゃあこの後なまえは恋人と回るの?」
「え、あー、私の恋人、学生じゃないからねぇ」
「えっ!?なまえの恋人、社会人なの?!」
「ん?まーそうなるね」
「そうなんだ…あ、じゃあ今日は仕事、とか…?」
「多分…最近立て込んでるって言ってたしね…」

そう言って寂しげに笑うなまえ。
そんな彼女を見て慌てて話題を変える。

「あ、そうだなまえの恋人ってどんな人なの?」
「え、私の恋人?うーんそうだなぁ」

なまえは目を閉じて相手を思い浮かべるように言葉を並べる。

「黒髪で」
「うんうん」
「力強くて」
「うんうん」
「ちょっと怖い顔なんだけどでも本当はとっても優しいの」
「へぇー」

そう言って笑うなまえは恋する乙女そのもので綱吉もつい笑顔になる。

「その人のこと、本当に好きなんだね」
「えっうん?わかる?」

ぺたりと両手で頬を挟み、照れた様に言うなまえ。

「そりゃ、そんな笑顔で語れば俺だって分かるよ」
「えへへ、そっか」
「ねえ、その人のこともっと教えてよ」
「え?うーんそうだなぁ…」

はたはたと火照った顔を手であおぎながら言う。

「その人とは中々会えないんだけど、忙しい中わざわざ会いに来てくれたりするの」
「へえー、優しい人なんだ」
「うん!それとね、私今バイトしてるんだけど、うまくいった時とか頭撫でて褒めてくれるの。それが嬉しくてお仕事も頑張れるんだー!」

にこにこと笑うなまえに綱吉もつられたように笑顔になる。

「そうなんだ。ていうかなまえ、バイトしてたんだ」
「うん、高校入ってすぐ始めたバイトだからかれこれ2年以上になるかなぁ」
「そんな前からしてたの!?すごいなぁ…」

そんな事ないよ、と笑う彼女は嬉しそうに、少し誇らしげに笑った。
その瞬間、ぞくりと背筋が粟立つ感覚に襲われる綱吉。

「綱吉?どうしたの?顔色悪いよ?」
「い、いや大丈夫…」
「そう?無理しちゃ駄目だよ?」
「う、うん…」

そしてはたと気付く。先程まで煩いほどだった喧騒が静まり返っているのだ。

「おい、其処で何してんだカス」

低く、良く通る声が響いた。

ぱっと顔を上げると目の前にはXANXUSがいた。

「な、なんでここに…」

呆然とした様に呟く綱吉に構うことなくずんずんと近づいてくる。
あたふたと慌てる綱吉だが、ハッとして隣にいたなまえを見ると、彼女はXANXUSの方を見て小さく震え、固まっている。

「あっなまえ、あのね!この人は、その、」

しどろもどろになりながらXANXUSをなまえの視界から外そうとする綱吉。
すると、彼女の瞳からぽろりと涙が零れ落ちる。

「!?!?」

どどどどうしよう!と更に慌てている綱吉だったが、不意にぐい、と体を押し退けられる。
え、と思い押し退けた相手を見るとXANXUSがなまえを見下ろしていた。

「ちょ、XANXUS…!」

彼女は一般人なんだから…!と言おうとする綱吉を遮るようにXANXUSが口を開く。

「何故泣く」

そりゃあんたの顔と雰囲気が怖いからだろ!と、声にならない突っ込みが綱吉の心の中で叫ばれる。

「だって、うれしくて…」

そうそう嬉しくて…って嬉しくて?!
聞き間違いかと綱吉は慌ててなまえを見る。
するとそこには信じられない光景が広がっていた。

「泣くな」
「うええ〜…無理ですぅ…」

なんとあのXANXUSが泣いている彼女の涙を拭い、慰めているのだ。
XANXUSと出会ってから約3年、一度も見たことのない姿に綱吉の脳内は混乱している。

「仕事、立て込んでるって言ってたのにぃ…」
「…早めに切り上げた」
「そうなんですか?」
「ああ、だからもう泣くな」

するりと頬を撫でるXANXUSの大きな手に甘えるように擦り寄るなまえとそれを甘受するXANXUS。

その様子を呆然と見守る綱吉に、少し照れた様になまえが言う。

「改めてこちら、恋人のXANXUSさんです。綱吉も知ってるよね?」
「うん知ってる!」

人違いであって欲しかった…!と嘆く綱吉だったが、はたと気付く。

どうして彼女は自分とXANXUSが知り合いであることを知っている?
そもそも一般人であるはずの彼女がどうやってXANXUSと知り合ったというのだ?
次々と浮かんでくる疑問に冷や汗が出てくる。

「ね、ねぇなまえ ってもしかしてマフィア、だったり…?」
「うんそうだよ」
「アッサリ認めたー!」
「それに私、ヴァリアーだし」
「えっ」

さらりと伝えられた事実に固まっていると、会話から省かれていたXANXUSがイライラした表情でなまえの腕を引く。

「行くぞ」
「えっちょっとどこ行くんですかXANXUSさん?XANXUSさん??」

綱吉ごめーん後よろしくー!と言う言葉とともに投げられたプラカード。
行き先も告げずに去っていく2人の姿をプラカードを持ちながら唯々眺める綱吉が彼女のバイト内容が自分の護衛だと知るのはもう少し先の話。



とある文化祭でのお話



 おまけと後書き