店内に入り、オーナーシェフであるシロタの書斎に招かれた弥子達は脅迫状について詳細を聞いた。

問題となった脅迫状もみせてもらい、対策として、石垣が日に何度か警察を巡回させてはどうかという案を出していると、ガシャン!という派手な音とともに女性の悲鳴が響き渡った。

それを聞いた笹塚と石垣は、すぐに悲鳴のするほうへ走り出した。

悲鳴が聞こえてきたのは厨房の中からで、厨房に入ると、チーフシェフのウンノが仰向けで、亡くなっていた。


続いて弥子達も厨房に入ってきた。
弥子は眉をひそめ、戸惑いながらもその遺体をみつめた。
同じように遺体をみた名前は顔を青くさせ、両手で口元をおおい漏れそうになる声を押し殺していた。

平凡な女子高生に見せる光景じゃないと思った笹塚は弥子と名前からなるべく遺体が見えないように立ち、はやく厨房からでるよう促した。




厨房を後にし、シロタの書斎に戻ってきた。笹塚はちらりと名前をみる。
名前の表情は言うまでもなく、浮かないままだった。
普通の女子高生が、遺体をみて平常心でいられるわけねぇよな・・・とぼんやり考えながら、笹塚は石垣からの報告に耳を傾けた。

捜査の結果、遺体は鈍器のようなもので背後から殴られたということがわかった。
石垣が捜査でわかったことを話し終えると、ネウロは弥子のの頭をつかみ、書斎をでていった。


「大丈夫?」


書斎に残った名前に声を掛けると、無理に作られた笑顔と力のない大丈夫ですという声が返ってきた。

−−そんな顔して大丈夫と言われても説得力ねぇよ・・・と笹塚は心の中で呟く。

どこからどうみても大丈夫じゃない名前に早く事件を解決して家に帰してあげたいと思いが湧いた笹塚は石垣を連れて現場に戻った。



まだ出会ったばかりのはずの彼女のことを何故ここまで気に掛けるのか。
繊細で多感な時期である未成年だからなのか。
初めてみた彼女のあの笑顔に何か思い入れをしてしまったからか。

笹塚は名前の無理に笑った顔を思い浮かべながらまるで他人事のようにぼんやりと考えた。
考えたところで今出る答えではないと思った笹塚はその考えに蓋をして、事件の捜査へと戻った。



今はまだ、この思いには気づけない。気づいてはいけない気がした。




( 始まりかけた、点 )