いつものように仕事におわれている。
・・・わけでもなかった笹塚は、一服しようと喫煙所に向かった。
その途中で、笛吹と出会い、挨拶をしようとすると、笛吹の方が先に口を開いた。

「笹塚、まだいたのか」
「・・・まぁ・・・仕事あるしな」
「急ぎの仕事ではないだろう。そんなときくらい定時で帰れ!明日は来なくていい。私が有給をとっておいた」
「・・・は?」
「そうでもせんと、貴様は休まんだろう」

そんなこんなで、帰宅を命じられ笛吹の言動に疑問を抱きながら廊下を歩いていると、今度は筑紫と出会った。

「お疲れ様です」
「・・・笛吹に帰れって言われた」

少し、ふて腐れたように笹塚が言うと、筑紫は笛吹の意図することがわかったのか、小さく笑った。

「あの方なりの、気遣いですよ。最近、あまりお休みになられていなかったようですし」
「・・・そうでもねぇよ。・・・・・・気遣わせて悪かったな」
「いえ。笛吹さんも私も、笹塚さんを想ってのことですよ」

笹塚はふたりの気遣いが照れくさいのか眉をそっと寄せると、サンキュ。と言って署を出て行った。
笹塚が車に乗り込んだタイミングで携帯が鳴った。
着信は彼女からだ。


カレー作ったので、冷蔵庫にいれておきますね。2、3日はもつと思いますので、よかったら食べてください。


絵文字がなくても伝わってくる優しさに、笹塚はふっと表情を緩めると、彼女へ電話をかけた。

『・・・もしもし』
「もしもし・・・俺だけど」
『笹塚さん!お仕事の方は?』
「今終わった。名前ちゃん今どこにいる?」
『お疲れ様です。笹塚さんの部屋を出たところです』
「じゃあ、俺の部屋で待ってて。すぐ帰るから」

今から帰ると言った笹塚に、名前は嬉しさを隠し切れないのか声が弾んだ。

『はい。気をつけて帰ってきてくださいね』
「あぁ。じゃあ後で」
「はい」

電話を切り、ハンドルを握ると、笹塚はゆっくりとアクセルを踏んだ。
彼女が気をつけて、と言っていたから。
その言葉通り、笹塚は安全運転を心掛けて家に向かった。


(帰ったら、君がいる。今日は良い日だ)