「怖かったな。もう、大丈夫だから」



笹塚さんの優しいその言葉に、堪えていたものが一気に溢れ出して、涙がでた。
笹塚さんはそんな私を何も言わずにただ、強く手を握ってくれた。その手の温もりにまた安心して、涙がとまらなかった。




ありきたりな言葉しか掛けられなくて、彼女は泣きだした。
俺はただの刑事で、彼女の知人でも友人でも恋人でもないから、なにもしてあげられない。
それがただ、歯がゆかった。だからせめて少しでも、そう思って彼女の手を握った。

出会って間もないけど、あの子のことで少しわかったことがある。
あの子は周りに迷惑をかけまいと、頑張る子なんだ。辛いことがあっても笑顔をみせ、周りを気遣う。凄く、優しい子なんだ。








「あの、色々と、ありがとうございました。・・・送ってもらって、すいません、」
「いや。こっちこそ、怖い思いさせて、ごめんな」
「そんな、やめてください、笹塚さんが悪いわけじゃないですから」




気遣っていただいて、本当に、ありがとうございました。ともう一度お礼を言うと、彼女は頭を下げた。
そしてへにゃりと微笑むと失礼します、と彼女はマンションの中に入っていった。



最後に見せた彼女の笑顔は、精一杯笑ったつもりなんだろう。出会ったときにみせたあの微笑みとは程遠い笑顔だった。
そんな彼女の背を見つめ、ため息をひとつ。彼女が入って行ったマンションを見上げた。



・・・


え、



彼女のことで頭がいっぱいで気づかなかったが、そのマンションには見覚えがあった。
たまにしか帰らない、自分の部屋があるマンションだった。


「まじか」


思いもよらない共通点に、少し、ほんの少しだけ心が弾んだのは気のせいだと思っておこう。



(また、出会える。そう確信した)