朝、微睡む意識の中で、隣にあったはずの体温がなくなっていることに気付き、まだ重たい瞼と闘いながら体を起こした。



リビングに行くと彼女がキッチンに立ちご飯の支度をしているところだった。
そのまま、足音を立てずに近づく。
彼女の手から包丁が離れたことを確認して後ろから抱き締めると、彼女は驚いて振り返った。

「わ、笹塚さん。起きたんですね。おはようございます」
「ん。おはよう」
「今日はいつもより早いですね。まだ寝てても大丈夫ですよ?ご飯の用意ももう少しかかりそうなので」
「ん……いい。俺もする」
「いいですよ、笹塚さんはゆっくりしててください。今珈琲いれますね」
「ありがと」

とりあえず頭がはっきり機能するまではお言葉に甘えることにした。ぼんやりしたままソファに向かったとき。

「あ、笹塚」
「ん?」
「新年おめでとうございます」
「あ、忘れてた。おめでとうございます」
「今年も、よろしくお願いしますね」

微笑んだ彼女につられて、自分の表情も緩む。彼女といると自分の表情筋が嘘みたいに動く。彼女のお蔭で人らしい大切なものをまだ持ている、そう思える。

「こちらこそ」

ソファに向けていた足をもう一度彼女に戻して、手の届く距離になった彼女の頬に手を添えて、今年最初の口づけをした。


ハロー、2016年