「アルコール、飲んだのか」
「…そんなにのんでないれす」

喧騒の中でも彼の声だけはしっかり拾ってしまう自分が憎い。
ちらりと見たXANXUSの周りには減ることなく女たちが群がっている。
その事にぎゅ、とグラスを持つ手の力を強めながらぷーいと顔を背けた。
XANXUSから話しかけてもらっているのにそんな風に素っ気なく返す玲音を見て彼の周りの女性たちがコソコソと、それでも玲音に聞こえる様、囁きあう。

「なにあの態度」
「どこの誰だか知らないけど」
「XANXUS様から声をかけてもらっておいて」
「それに…」

そう言った女性が言葉を途中で止めて、玲音を上から下まで観察する。
そうして小さくクスリと笑う。

釣り合わない。
貧相な体。

そう視線が語っている。
何時もなら意気消沈してしまっていただろう。
言い返すことも、出来なかっただろう。
だけど、今日はなんだか気分が高揚しているの。
なんでも言える気がする。
なんでも出来る気がするの。

うるせーんですよ

玲音の口が動く。
しかし、その小さな声は周りの喧騒に掻き消されてしまい、女達は首を傾げる。
XANXUSも聞き取れなかったのか、玲音の言葉を聞き取ろうと身を屈めた瞬間、彼女の手がXANXUSのネクタイを掴んだ。
そして、そのままXANXUSを引き寄せる。

「!?」

ぐらりと傾くXANXUSの体。
ガチッと歯と歯がぶつかる音がした。
じくじくと鈍い痛みと鉄の匂いに、くちびるが切れたのだと何処か他人事の様に頭の片隅で考える。
ぐい、と唇を濡らす血を親指で拭う。
そして、きゃんきゃん騒ぐ女達を見据えながら一言。


「XANXUS様に気安く触れるんじゃねーですよ雌猫共」

酒の勢いって怖い