オーキデウス
「ソフィア、今日は随分と楽しそうだねぇ。原因はマルコか?」
「あら、イゾウには分かる?」
くすくす、と笑うソフィアは相変わらず魅力的な女だ。マルコが惚れるのも頷ける。最近は2人で過ごす時間が増えて幸せそうにしてる。いいことだ。
ソフィアの方は分からないが、マルコは前から、それこそソフィアが家族になった頃から随分と気にかけていた。それが恋心だって自覚はなかったみたいだが。いっそ見てるこっちがもどかしいくらいだったのを覚えている。
「デートか? いつもより綺麗だぜ」
「ありがとう。本当は偵察だけど、オヤジ様がゆっくりしてこいって言ってくれたの」
似合う? とスカートの裾をつまんで見せるソフィアはいつも以上に綺麗だった。自分のためにめかしこんでくれるなんて、男冥利に尽きるってもんだ。マルコは本当にいい女を射止めたらしい。羨ましいくらいだ。
「で、当のマルコが来ねぇってわけか」
「そうなの。オヤジ様と話して来るから待ってろって」
待っていることさえ楽しいのだろう。ソフィアは笑いながら軽く肩をすくめた。
「暇なら、髪でも結ってやろうか」
「できるの?」
「得意分野さ。姉さんたちにもよく頼まれる」
じゃあお願い、と頷いたソフィアを適当な椅子代わりの木箱に座らせて、束ねてあった髪をほどく。さらりと手のひらを滑る鈍色の髪。前々から飾りたいと思ってたんだ。
「とびきり綺麗にしてね。デートなんだから」
「了解。任せときな」
軽口をたたきながら、指通りの良い髪を手櫛で梳いて、編み込んで結い上げる。自分の髪や姉さんたちの髪で慣れたもんだ。やっぱりソフィアには上品なアップスタイルがよく似合う。
「なぁ、ソフィア。花出してくれないかい? ちょっと物足りないんでね」
「いいわよ。…『オーキデウス』」
軽く振られた杖の先から小さな花がソフィアの膝にこぼれ落ちた。相変わらず魔法ってのは凄い。これでいい? と手渡されたそれを結い上げた髪に挿して完成。
「これでよし。綺麗だぜソフィア」
「ありがとう、イゾウ。じゃあ、これはお礼に」
ひゅ、とまた杖が振られる。その先から手元に落ちてきたのはいつかの紅い椿の花だった。懐かしいそれをいつかのように髪に添えれば、ソフィアはやっぱり似合う、と褒めてくれた。
「ソフィア、悪りぃ待たせたよい」
「おや、待ち人が来ちまったらしい」
もう少し遊んでいたかったけど、恋人が来てしまったなら仕方ない。ソフィアはイゾウに髪結ってもらったの、と嬉しそうに笑って、マルコに寄り添った。
「そりゃよかったな。似合ってるよい」
愛おしそうに目を細めたマルコは、心底ソフィアに惚れているらしい。本当に似合いのカップルだ。
「じゃあ、イゾウ。行ってくるわね」
「ああ。楽しんでこいよ」
行ってきます、と青い空に飛び立った魔女と不死鳥を見送る。なんだかとても気分がいい。多分、家族が幸せそうにしてるからだろう。今日はとてもいい日だ。
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