君を見てるだけで十分
買い物は女同士の方が気楽だろう、とマルコが言うので、上陸一日目はナース達と服や雑貨を買いに出かけた。
同年代の友人は少なかったから、中々楽しくてついつい買いすぎたような気もする。ローブがなかったのが残念だけど。
「お待たせ、マルコ」
「別に待ってねぇよい」
軽い足取りでマルコに駆け寄れば、肩をすくめられた。なんだか恋人のようなやりとりに少しだけ笑ってしまう。
上陸二日目の今日は、マルコと薬草店に行く予定だ。目当てのものがあるといいんだけど。
「なんだよ、マルコ。ソフィアとデートか」
「ちげぇよい。買い物に付き合うだけだ」
「その割りには、今日のソフィア可愛いけど」
ニヤニヤ笑いながら、なぁ? とサッチは首を傾ける。
言われて自分の格好を見下ろせば、確かに今まで見せたことのない、胸元の開いたワンピース姿だった。
海を模したという青色のそれは、昨日買ったばかりのもので、せっかく買ったから着てみたのだけど、言われてみれば何時もより派手かもしれない。
「昨日買ったから着たくなっちゃったんだけど、やめた方がよかった?」
「いや、似合ってるからそのままでいいよい」
「いい女連れて歩けるとか、マルコさん羨ましー」
「残念だったな。てめぇは、大人しく船番でもしてろ」
…なんだか、遠回しにマルコにまで褒められた気がする。どうしてか顔が熱くなったから困った。
まぁ、幸い二人にはバレていないようだったけど。
ーーーーー
へらりと笑ったサッチに見送られ、二人で街を歩く。道行く人が多いのは、ここが栄えた港町だからだろう。
はぐれないようにか、少しだけゆっくり歩いてくれるマルコは本当に紳士だと思う。海賊には似合わない言葉だろうけど、そんな形容が浮かんだ。…優しい、とも言うのかもしれない。
そうやって、我ながら下らない事を考えているうちに目的地に到着した。
「取り敢えず、この島にある薬草店はここだけみてぇだよい」
「そう。なら、店中みてまわらないと」
「そりゃ、時間がかかりそうだ」
仕方ない、と互いに笑って店のドアを開ける。カラン、とベルを鳴らして店内に入れば、懐かしい薬草の匂いが体を包んだ。
ーーーーー
魔法界と名前の変わらない薬草はすぐに見つかった。けれど、この世界にしかないものに関しては試薬で検証を重ねて慎重に選ぶしかない。軽く試していいかと尋ねて、幾らかのベリーを渡せば店主は快く応じてくれた。
「マルコ、暇だったでしょう?ごめんなさい」
「別に見てて面白かったから、平気だよい」
二時間。たっぷり時間をかけて薬草を選んで、かなりの量を買うことに決めた。
中々に嵩張るそれを抱えながら、 港への道を歩く。明らかにマルコの方が荷物が多いけど、持たせてくれないのだから仕方ない。
「…面白いものでもなかったと思うけど」
「液体の色一つで、一喜一憂するお前が面白かったんだよい」
「何それ。私の顔がそんなに面白かった?」
どこか拗ねたような声でマルコに応じて、頬に手を当ててみれば、くくっとからかうような笑い声を返された。
…一体どんな顔してたの、私。
君を見てるだけで十分
何故ならとても魅力的だから
prev /
next