長編 | ナノ


  君の秘めた可能性


 棚に並べたガラス瓶の中から、ひとつを手にとって蓋をあける。中の液体を火傷にたらせば、緑色の煙があがった。軽い火傷だったから、これで大丈夫だろう。

「へぇ、すごいもんだねい」

「ハナハッカのエキス。安全に傷を治したいときに便利なの」

 マルコの長い指が傷のあった場所をなぞる。跡も残っていないことを確認したその目が柔らかく細まった。
 それに、少しだけどきりとしたのは秘密。

「エースがうるさいだろうから、今回は黙っててやるけどよい。次は頼れよ」

「…ありがと、そうする」

 なんだか照れくさくて、返事は小さくなってしまったけれど、マルコは気にした様子もない。本当に優しい人。
 …だからだろう。手の内を明かしていいと思えたのは。

「あのね、マルコ。私、本当は杖がないと魔法は使えないの。弱点だから、黙ってたんだけど」

「弱点明かしていいのかよい」

「頼れって言ったのそっちじゃない」

 軽く肩をすくめて皮肉ってやれば、そうだったねいと面白がるような声を返される。そんなやりとりがどうしてか心地よくて、自然と口角が上がった。

「それに、魔法が使えないからって、戦えなくなるわけじゃないから」

「ああ、エース吹っ飛ばしたあれかい」

「そ。むしろあれが私の専門、魔法薬」

 棚ならんだ瓶と、幾つかの本は向こうから持ち込んだもの。希少な材料が多く並ぶのは、材料集めの小旅行の帰りにこちらに来てしまったからだ。代用できるものがこちらの世界にあるかは分からないから、本当に幸運だと思う。

「ルーカスに作れない薬はない。治せない病はない。なんて言われるくらいには、優秀なのよ、私」

 茶化すように笑ってみたけれど、どうしてかマルコの目の色が変わった。
 やけに真剣でいながら、どこか縋るような目だ。

「どうしたの、マルコ」

「…なぁ、ソフィア。本当に治せねぇ病はねぇのかよい」

「比喩みたいなものだから、症状をみないことには何とも。……もしかして、オヤジ様のこと?」

 半ば確信を持って問えば、返されたのは肯定。体の内側から弱っていく病は、原因不明だとナース達から聞いた。進行を遅らせることしかできないのが現状らしい。あらゆる手を尽くして、治療法を探しても、今のところ有効なものは見つかっていないそうだ。
 けれど、私なら? 魔法薬ならどうだろうか。

「オヤジには元気でいて欲しいんだよい。どうにかならねぇか?」

「…やってみるけど、あまり期待はしないで。材料が揃うかも分からないから」

 それでも、手を尽くしたいと思ったのは、大好きな人には元気でいてもらいたいから。

君の秘めた可能性


 それは、魔法薬


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