相も変わらず (倉持洋一)


美味いものを食ったら、あいつが好きだろうな。あいつにも食わせたいなと思う。

しかしそれは喧嘩をした後でも前でも変わらないから、俺はあいつのことが本当に好きなんだなと改めて思う。

◇◇

「メシ、御幸と食ってくるから」

あいつと喧嘩をした。理由はしょうもないけど、俺は腹が立ったし、あいつは折れない。それならもうどうしようもないから仕方がない。

そう言い残して家を出ると御幸を呼んだ。


「お前さ、俺だって暇じゃねぇんだけど。分かってる?」
「うるせー、分かってるよ。だから付き合え」
「えぇ、それ分かってないじゃん……」

眉をひそめる御幸なんて気にせずにスタスタと歩いて行けば、溜息をついた御幸も後に続いてきた。

「で、どこ行くの」
「……ラーメン」
「はぁ? また〜? お前いっつもラーメンじゃん」
「……あいつの好物なんだよ」
「喧嘩したんじゃねぇの、お前ら」

ニヤつく御幸に腹が立つ。

その後は特に会話もせずに歩き続けて、以前から目をつけていたラーメン屋の前で足を止めた。しかし看板を見上げるとふと口を開く。

「……やっぱ帰るか」

踵を返し来た道を引き返そうとする。……が、御幸に止められた。

「ちょ、お前ここまで来て帰る? 俺もうラーメンの気分なんだけど」

唇を尖らせる御幸にガシッと肩を掴まれ観念する。ふぅ、と吐いた息はどこかへ消えた。


「美味いじゃん、ラーメン」
「そりゃ前々から目つけてた店だからな」
「……お前さぁ、」
「なんだよ」

顔を上げた御幸から目を逸らせば、ケラケラと笑った。

「なんだかんだで彼女に甘いよな」
「……俺も今それを痛感してる」
「なんだ。素直じゃん、倉持くん」
「……だってしょうがないだろ。このラーメン、あいつにも食わせたいなって思っちまってるんだからよ。悲しいことに」
「ふーん、ラーメンねぇ……」

相変わらずケラケラと御幸は笑うから眉間に皺を寄せて睨んでみたけど全く怯みそうもない。

「それで? 喧嘩の理由はなんだったんだよ?」
「あいつがお前のことかっこいいってばっか言うから腹立った」
「だからヤキモチ妬いたんだ?」
「オメーに腹立っただけだよ!」

ヒャハハと笑うと御幸が残してあったチャーシューを奪い取る。

チャーシューもラーメンそのものも美味いから、また今度あいつと来ようと思う。



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