君が僕でないことは僕が君でないこと *スクアーロ(22)、ベルフェゴール(16) 美貌も金も才能も、何でも持っていて、なければ手に入れて、要らなくなれば簡単に捨てる。ベルフェゴールにとってそれは当然のことで、そこに疑問などは存在しない。そしてそれは自分の美点だとベルフェゴールは思っていた。周りは自分を見て、「いいなあ」と溢す。それに含まれるのは 「なんつーかさ、俺って結構バカだったのかも」 なんでもないような声でそう言ったベルフェゴールに、スクアーロは束になっている書類を落としそうになった。その反応にベルフェゴールは「なにしてんの」と他人事のように笑う。スクアーロはお前のせいだと言わんばかりに睨んだが、変わらずベルフェゴールは笑い続けていた。スクアーロはこれ以上は無意味だと判断すると、はあ、と大きく息を吐いた。そうすると今度は、ベルフェゴールがどうしてそんなことを言い出したのかを思った。 「なんかあったのかあ?」 「なんかさ、俺がここに来たばっかの頃って、ただ行き場がなかったのとか、楽しめることがあるのとかが重なって、好条件な場所を見つけたってだけだったのよ。それこそさ、なんかテーマパークとか、そんな場所に遊びに来たって感じで。ここがほんとはどんなとこなのかとか、全然、わかってなかった」 そう言われてスクアーロは、何か、ベルフェゴールが後悔しているのかと心配になった。その心配というのは、仲間としていなくなってしまう不安か、もしくは能力の高い幹部という存在がいなくなるということへか。どちらにしても、ベルフェゴールがいなくなるということはとても大きいことで、いなければ困るということに変わりはなかった。 「スクアーロはさ、俺になりたいと思う?」 ぐるぐるとした思考のなかで、ベルフェゴールの問いかけが落ちてくる。それはさっきまでの話とはなんとも繋がらない、脈絡のない問いかけだった。けれどベルフェゴールの空気はいやに 「……俺はお前じゃねぇから、だから、お前になった俺も想像できねぇし、そもそも、お前になれるわけもねえ。だから俺は、お前になる必要はないんじゃねーかって、思ってる」 それは、なりたいか、という質問の答えになっていなかったが、ベルフェゴールは「そっか」と満足げに笑った。だからスクアーロも「ああ」とまだ緊張を残して、笑った。そうして「俺、まだちゃんと説明できないんだけどさ」と前置きをしてベルフェゴールがスクアーロの持つ書類の一枚を引き抜いて、言った。 「スクアーロがスクアーロでよかったよ」 スクアーロは「そうかあ」と言って、ベルフェゴールが「うん」としょげた調子で言った。それから書類を返して「ちゃんと全部伝えられるようになったら、また、話すから」と一方的に約束を取りつけた。スクアーロはそれを受け取って、「ああ」と答えた。それからは少しの静かな時が流れた。スクアーロはベルフェゴールの嬉しそうな口元を見て、いつまででも待っていられるような気がした。そうしていつまででもそばにいようと思った。ベルフェゴールが自分のなかで答えを見つけたとき、自分もちゃんと答えを返せるように。 → 1/3ページ 目次 / TopPage |