僕が君を、
もっとよく見ていたら…
君は傷付かなくてすんだよね。

僕が君に、
もっと溢れんばかりの愛を伝えていたら…
君は涙を流さずにすんだよね。

僕が君を、
もっと強く抱き締めていたら…
君の気持ちに気付いてあげられたんだよね。



ごめんね。





╋俺の大事な恋人╋





SIDE.K

どうして、こんな事になってしまったのか。
理由が自分にある事ぐらい、重々承知している。
(はぁ、どうすっかな…)
そして分かっている…というより理由が自分にあるから、こうやって困っている訳で。
溜め息が出る。
面倒とか、そんなんじゃない。

(…泣きそう)
柄にもなく、少し。
殴られ腫れているであろう左頬は痛み、熱を持っていた。
でもそれ以上に。
心と…右手が痛かった。



『僕は君に、我慢してまで付き合ってくれと言った覚えはない。』
これがさっき、石田に言われた言葉だった。
石田の表情はうつ向いていて、よく分からなかったけど…
少し震えていたから、泣きそうだったんだと思う。

『……でもよ、少しは甘えるとか出来ねぇのかよ…』
最初はどうでも良かった。
もう喧嘩の理由何て、覚えてないぐらい些細な事だった。
女のように柔らかい躰とか。
女のように高い声とか。
そんなモノが欲しかったんじゃなかったし。
『甘える…?僕が君にかい?嫌だね、絶対に嫌だ。』
心底嫌そうな顔をして、石田は言ったから。
だから…



『―――可愛く、ねぇな…』
そう言ったんだ。
すると石田は、キッと俺を睨み…
『だったら別れればいいだろう?さっきも言ったけど、我慢してまで付き合ってる意味はない。』
と言いながら、俺に背を向けて帰ろうとした。

どうしてだろう。
今思えば、本当に…
『ホント、可愛くねぇよ…』
―ガッ
何で、殴ったんだろう。



石田が甘えないのとか、そんなの分かってるのに。

冷静に考えれば、アイツがあの時
どんなに傷付いてたのか、分かったのに…





『……可愛くないの何か、僕が一番分かってるよ…』

石田はこの言葉を、どんな気持ちで繋いだのだろうか…









SIDE.I

男なのに。
告白された時の、率直な感想はそれだけだった。
友達だとか仲間だとか、そういう風に思ってた訳じゃないけれど…
少しは、気持ちを許せる関係になれたかな…って。
そう思ってたから。



(手…痛いな…)
真っ赤になった手を見て、改めて思う。
手も、頬も、心も痛い。
黒崎に殴られて、反射的に僕も黒崎を殴った。
あまりにも、理不尽な事を言われて。

(違う…)
理不尽なんじゃ、ない。
僕がずっとあの言葉を、恐れていたんだ。
言われたくなくて。
言わせたくなくて。
『可愛くない』
何て、そんな言葉。
この関係、全てを否定されるような感じがするから。
女の方がいいと、言われたような感覚になるから。

自分が、全然可愛くないのは分かってた。
元々、黒崎とは良い仲間とかいう関係じゃなくて。
死神(とは言え代行だが…)とそれを憎む滅却師。
どこに惹かれた?
と聞かれたら、言葉に詰まってしまうだろうし。
愛してる?
と聞かれたら、答えられない。

確かに、自分の中でも今までにない何かを感じていたけれども。
ハッキリしないこの胸の内に、苛立って仕方ない。



『僕は君に、我慢してまで付き合ってくれと言った覚えはない。』
…多分、この言葉が悪かったんだと思う。
(本当に…我慢してほしくなかっただけ、なんだけど…)
どうすれば良かったんだろう。
どうすれば、黒崎を怒らせないように出来たのか。
どうすれば、黒崎に嫌われなかったのか…
考えれば考えるほど、痛い…

ふと家に帰って、鏡を見る。
黒崎に殴られた頬は、赤く腫れていた。
これでは明日、外に出られないぐらいになるだろうか。
きっと、黒崎もだろう。
同じか…もしくは、少し僕の方が強かったかもしれないぐらいの力で殴ったから。
(っ…)
そう考えると、後悔の波が押し寄せてくる。
今更。どうしようもないけど。



黒崎は…どうして井上さんとか。朽木さんとかじゃなくて…
僕を選んだのだろう。

そんな事を考えながら、満月に近い状態の月が輝く夜空を、僕は一人で見つめていた…











SIDE.K

その日の夜。
俺は窓辺で夜空を見上げながら、一人考えていた。
石田の言った、言葉の意味を。

『……可愛くないの何か、僕が一番分かってるよ…』
幾ら考えても、導かれる答えは、"俺が悪い"にたどり着く。
分かってる…
分かってるよ、俺だって。
石田は可愛くないとか、そういうモンじゃなくて。



可愛い…
とか、まずそういうモノを求めててはダメ何だ。
頭の中で、理解する。
理解できる…

それでもあの時、口から溢れた言葉は…本心、何だろう。
可愛い石田が見たかった。
少し甘える石田が見たかった。
ただ、それだけ。

可愛くなくて、いいんだよ。
素直じゃなくて、いいんだよ。
でも…



「意味分かんねぇ…」
自分の思考が、イマイチ理解できなかった。
こんな、自分の事も理解できないようなヤツが、恋人の深い胸の内何か、理解できるハズがない。
「どうすりゃ、いいんだ…」

可愛くない石田。
素直じゃない石田。
いつも睨む石田。

時々笑顔を見せる石田。
はにかむ石田。



どれも、好きで。
どれも、愛らしい…





なぁ、石田…
俺やっぱりよく分からないよ。
何で自分は、殴ったのかな…
何で自分は、殴られたのかな…
何がお前を傷つけた?
何がお前を苦しめてる?

ぐっと、爪が皮膚に食い込むぐらい拳を握り締める。
血が滲んできた…



『…僕で、いいの?僕は女性の方みたいに甘えたり、できないんだよ…?』
『構わねぇ…』
『……本当に?』
『あぁ…』
『黒崎がそう言うなら、付き合ってあげる…』
『……』
『     』

不安でしたか?
貴方も、不安でしたか?





『捨てないでね――…』





こんな、曖昧で不確かな関係。
不安でしたか?

それを、決して口には出さないのが、貴方だから。
馬鹿な俺は、気付かなかった。
気付けなかった。



『…可愛いのが望みなら、女性と付き合いなよ…』



そんなんじゃ、ないよ。
ごめん…
忘れてた…

可愛い人と付き合いたかった訳じゃ、ないんだ。
…―――貴方と、





俺は、窓を開けた。
昼間とは違う、ひんやりとした空気が、頬を撫でる。
「ちょっと出かけてくるなぁ!」
それから逃げるようにまた窓を閉め、そう叫びながら俺は家を飛び出した。
後ろの方で、親父たちが何か言っていたけど、この際無視だ。





…―――貴方と、

一緒に、いたいだけ何だよ―…





俺は無我夢中で、石田のマンションまで走っていった。













SIDE.I

黒崎と一緒にいる時、一番嫌だったのは、自分が自分じゃなくなってしまう事だった。
素の自分を隠して、我慢して黒崎といる…とか、そういう意味じゃなくて。

僕は、女じゃないから。
いつか捨てられてしまうんじゃないかって、不安だった。
黒崎が告白してくれたから、少しぐらい大丈夫だと、勝手に思い込んでいたけれど…
井上さんへの視線。
朽木さんとの会話。
他の、女性との接触。
全て…
不安で堪らなく、怖かった。

別に、黒崎の浮気を心配してるんじゃない。
井上さんや、朽木さんをどうこう言うつもりもない。
ただ…
黒崎にハッキリしてほしかった。
態度で、表してほしかった。



『黒崎は、女の人と付き合った事ないの?』
『ねぇよ…お前は?』
『…僕?ないよ』
『だろうな…』
『どういう意味だよ…』
『怒んなって、それに。めんどくせぇ――…』

女性が面倒だから、僕に告白したのかな…何て。
思ってしまうから。

『面倒…?』
『ほら、こう…束縛したりされっとだりぃ…』
『…』
『浮気について、とやかく言われたりなぁ〜』

その言葉は、もし浮気をしたとしても、お前にそれに対して何かを言う発言権はないんだよと、言われている気がしたから。



どうして僕なのか。
僕を選んだのか。
…ただ、明確に知りたかっただけなんだ。
嫌いになってないんだ。
好きなままなんだ。
捨てないでほしいんだ。

そして…
それを今も、ちゃんと伝えたいだけなんだ―――…





冷やしていたためか、赤みはあまりとれなかったが、腫れは引いたから学校に行った。
どうやら黒崎も、僕と同じ状態らしく、頬が赤い。
(あ…)
そう思い頬を見ていると、黒崎と視線があう。
(どうしよう…)
黒崎はと言うと、隣にいる小島君たちとの話を続けたまま、僕の視線を外そうとはしなかった。

(っ…)
すると黒崎は、何かを言った…



『ひるおくじょう』
そう、周りには聞こえぬよう声には出さずに口だけを動かして。
多分昼休みに、屋上に来いという意味だ。
(何を言われるんだろ…)
不安で仕方ない。
また可愛くない、とか言われるのだろうか…
それとも…



別れ…?

背中に冷や汗が流れた。












SIDE.K

学校に行くと、一番に目に入ったのは、石田の赤い頬だった。
腫れてはいなかったけど、自分よりも赤い頬に、罪悪感が重くのしかかる。

昨日、俺は石田のマンションの近くまで行った。
でも…
どうしても、チャイムを鳴らす事が出来なかった…。
…怖かったから。
拒絶、されそうな気がして。

でも今は。
妙に心が落ち着いている…
今なら伝えられるだろうか。
俺の気持ち。
俺の想い…



『ひるおくじょう』
視線を外さないまま、簡単に言葉を繋ぐ。
石田に伝わっただろうか…
少し頷いたから、多分伝わってはいるだろうけど。
来てくれるのか…

(分かんねぇけど…)
もし来てくれたら、伝えないといけないんだ。





***





昼休み。
まだ石田が教室にいるのを確認してから、屋上に行く。

ガチャ―
暫くして、ドアが開いた。



「石田…」
「ごめん、遅くなったね…」
よかった…
取り合えず、石田が来てくれた事に安心する。
「…よ、用件は何?」
「え?あ…あぁ」
でも石田は、俺と目を合わせようとはしなかった。

それに。
「………」
「は、早く…話をしないとっ…、昼休み、終わるよ?」
声は震えていて。
下を向いていて表情は分からないのに、泣きそうなのが手に取るように分かった。
「あぁ…」
「……」





伝えても、いいのか?
伝えてしまったら、石田にとって重荷にならないのか?

「石田…」

大丈夫なのか?
俺はコイツの隣にいてもいい人間なのか?





「やっぱり、可愛い奴と、付き合いたいよ…」
「…っ」

でもな、石田?

「だった…「石田がいいんだよ」





「え……?」
「"可愛い"のがいいんじゃない。素直な奴がいいんじゃない。」
「……」
「―――石田雨竜。お前がいいんだよ…」

石田じゃないと、ダメなんだ。
やっと思い出した…
いろんな壁を乗り越えてまで、男である石田に告白しようと思った理由。

「可愛いとか可愛くないとか、望んでなかった。」
「でっ、も…今…」

それは、とても簡単な事。



笑顔の時も。
スネてる時も。
泣きそうな時も。
いつも見せるその表情が、好きで堪らなかった。
男なのに、そう言ってしまったらおしまいだけど。
石田だから。

最初こそ、可愛い奴と付き合いとか思っていたけど。

「ごめん…」
「…っ」
「間違ってた」
「…言ってる、意味が、良く…分からない…」





「石田はそのままで、十分可愛いよ…」

どんな表情も。
この世の誰にも負けないぐらい。

「…――」
「可愛くないとか言って、ごめんな…殴って、ごめん…」
「黒崎っ…」
「可愛くなくても、素直じゃなくても。石田なら、いいんだよっ」

俺は、変わったんだ。





強く、石田を抱き締めた。










俺が石田を、
もっとよく見ていたら…
石田は傷付かなくてすんだんだ。

俺が石田に、もっと溢れんばかりの愛を伝えていたら…
石田は涙を流さずにすんだんだ。

俺が石田を、
もっと強く抱き締めていたら…
石田の気持ちに気付いてあげられたよな。



ごめんな。





「ホント、意味分かんない…」
「…俺も、分かんねぇや」
その後、俺と石田はずっと屋上にいた。
石田は、初めて授業をサボったらしく、そわそわしっぱなしだったけど…
「でも、嬉しかったよ…さっきの言葉、さ…」
「………あぁ」

誤解はとけて。
仲直りできて。
また、笑えて。
幸せで。



やっぱり、石田だよな。

俺の隣にいるヤツは…



何て、言ったら怒るかな?





「好きだ…」
「…っ、煩いよ…」
素直じゃなくて。
可愛くなくて。
それが、俺の大事な恋人。
「…でも、まぁ…」

「僕も、好きだよ。」



でも、時々大胆に。





君は僕を、惑わせる。



END





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リア友秋姫宅で踏んだ5000hitキリでもらったイチウリですv
イチウリ可愛いよイチウリ…!
二人のぶきっちょさがイチウリすぎて泣いた…!
この甘酸っぱさがたまらんです!ありがとう秋姫!ごちそうさまでした!!





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