LAIN



「…………」
「…………」

じっと一点を見つめて微動だにしない鴉が一人。
目覚めたばかりのような閉まらない表情をして、しかしその青灰色の瞳にはしっかりと遊星の姿が映している。
その視線に、Dホイールの整備をしていた遊星が上げた。不審感が眉間に皺を寄せる。

「……クロウ」
「んー?」
「…用があるなら言ってくれないか」

痺れを切らして掛けた声と共に体ごと彼に向き直る。
いくら長い付き合いで気を許しきっている相手だとて、流石に半刻以上も凝視されれば居心地も悪くなるというものだ。
が、目の前の旧い友人はあくまで視線を変える気はないらしい。青灰は遊星を捉えたまま、その目を少し細めて首を捻った。

「…別に用はねーんだけどよ」
「ならどうして俺の方ばかり見るんだ」
「どうしてってそれは――…、……あ"ぁーっ!!もうなんだかなーッッ!」

床に座ったまま後ろ手に体を支えていた両腕に体重をかけ、仰け反り天を仰ぐと、突如自棄になったように叫ぶ。静寂の中に置いていた耳に、不意の大音量が痛い。
そんなクロウに驚き、遊星が目を見張る。だがそれも一瞬のことで、すぐにその表情には不審の色が濃く浮かび上がった。眉根を寄せて微かに首を傾げるその彼を、クロウが黒目だけで追う。


若干幼さの残る端正な顔。その左頬に走る鮮やかな黄色いライン。世間一般で罪人と称される印。
手袋を外した健康的な素肌に映える、小さな傷達。服に隠れた肢体も同じように傷だらけなのだろう。
一見クールに見える遊星だが、実はそれほど大人でも冷静でもないことは、彼の仲間なら皆知っている。
感情起伏が激しいわけではない。しかし彼は、一度事が起きれば迷わず危険へと突っ込んでいく人間だ。
自分の身など顧みず、仲間や友や故郷のために。

言いたいことは山ほどある。けど、言わない。今は、言えない。


仰いでいた天井が半回転する。
頭を振り落としたその勢いに乗じて、クロウははぁ〜、と胸いっぱいの空気を吐き出した。

「……俺もシグナーだったらなぁ…」
「……は?」


(そしたら同じラインの上から、お前を守ってやれんのに)


うなだれる夕日色の鴉に、深い蒼石が瞬いた。



-Fin-








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