あおぞら 



 

透き通る蒼。高く高くどこまでも広く。
行く宛てのない風が視界の金髪を揺らす。流れる雲は、時間の波に逆らうように穏やかだ。
深く、息を吸い込む。
広がる蒼が、体に流れ込むような気がした。
目の前の蒼に手を伸ばして、代わりに掴んだ金網に額を押しあてる。閉じたはずの瞼の裏に、鮮やかな空色が広がった。
ふ、と緩む唇が揺れる前髪から覗く。
パズルをぶら下げた鎖が、ちゃり、と微かに音を立てた。それ以外の音は全く聞こえなくて、沈黙じゃないその静寂が心地良い。

瞬間。

「ゆーうぎっ!」
「!わ、あ!?」

背中にぶつかる衝撃。温もりを持つそれに驚いて目を開けると、今までの蒼がない。
細く差し込む光で薄ぼんやりと見える映像に、遊戯は目元を掌で覆われていることを理解した。

「へっへー、だ〜れだ!?当ててみ?」

明るい声。大きな手。よく知った体温。彼の匂い。
視覚以外の全ての五感が、彼という存在を探り当てる。分かりきった質問だ。
それを、あまりにも楽しそうに彼が問う。

「――城之内、くん」

視界を塞ぐその体温に自分のそれを重ねて振り返れば、案外簡単に外れたその先に、予想に違わない彼が、嬉しそうに笑んでいた。
大スキな、笑顔。

「正解。――なにしてたんだ?」

笑顔のまま、彼が言う。

「別になにもしてないぜ」

つられて緩んだ口元で微笑み返すと、勢いをつけてその広い胸板へと飛び込む。
うおっ、と小さく驚愕の声が上がって、それでもしっかり身体を支えてくれる手がやさしい。彼が瞬いた。

「…どうした?」
「ふふ、なんでもないぜ」

ぎゅぅっ、とキツく抱きつけば、キョトンとしていた彼が微笑む気配。
そっか、と短く返された相槌に、ぎゅっ、と抱き締め返してくれる腕はあたたかい。

ゆるゆると時が流れる。世間の波に逆らうように。
あまりにも穏やかな時間。まるであの雲と一緒に、ふわふわと浮かんでいるような。
空に、似ている。
ゆるりと瞼を開く。視界いっぱいの君色。しあわせな気持ち。
ふ、と緩む唇が、顔を埋めた白いシャツから覗いた。

「…城之内くん、」
「んー?」

少しだけ顔をあげて呼べば、弧を描いたままの唇で、彼がこっちを向く。
楽しげなその瞳に、また笑みが零れた。

「…大スキ、だ」



-Fin-




執筆08/11/29
修正10/04/06





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