「遊戯ー?て、ココにもいねぇか…」

重たい金属質の扉を開く。開けた視界は風の吹き抜ける真っ青な空で、しかし探し人はいない。
もう一度教室を見てこようか。
そう思い、上ってきた階段に戻ろうと体を捻ろうとした、その刹那。

「…城之内くん?」

聞き慣れた声。大切な親友と同じ音色の、それより幾分低い彼のもの。
城之内は返す踵を停止させた。あたりを見渡す。誰もいない。

「遊戯?」
「こっち。後ろだぜ」

振り返る。階下に伸びる階段。脚の欠けた机。誰もいない。景色は何も変わらない。
扉の内部と睨めっこする城之内の上に、不意に影が差した。顔を上げる。
その扉の上に、彼がいた。
逆光の影で微笑む彼に目を細める。
―眩しい。

背景に目が痛くなるほどの青。風になびく制服が翼のようだ。
光を失わない紅玉が、綺麗に細められる。
トクリ。
心臓が高鳴った。甘いような、冷たいような、胸騒ぎにも似た、己の心音。

嗚呼、彼は、







飛び立つ準備を  しているのか。





「、遊戯!」

届かない届かない今のままじゃまだ消える前にハヤク。
その行く手を阻むように、大きく両手を広げた。

「―来い!!」

瞬く瞳。離陸するのを躊躇した鳥のように。

「え?なん、」
「いいから飛び降りてこい!!あと5秒!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ城之内く」
「やだ待たねぇ!ほら、ごーぉ!」
「ぇ?えっ?」

疑問符を浮かべて慌てる彼。
急かすカウントダウンに、訳も分からず足を踏みだす。

「よーん」

地を蹴る。痛い青に、白い鳥が飛び出した。

「さーん」

鳥が飛ぶ。風に乗る。見えなくなる。
―――お前は?

「にーぃ」

…お前、は、

「いーち‥」


















――お前は飛んでいったり、しないよな?






















「――ゼロッ」

温かい衝撃。ぶつかる体温。支えた肢体。首に絡まる腕。軽い質量。彼の匂い。腕に納まる、確かな存在。
体が大きく傾いで、踏み止める足の反応が遅れた。

「お、わぁぁぁぁぁぁ!?」
「うわぁ!?」

二人分の悲鳴と砂埃が上がる。冷たいコンクリートに背中を打ち付ける。視界が、青い。

「い…ってぇ〜…」
「!城之内くん、大丈夫か!?」

ガバッ、と勢い良く彼が顔を上げる。青の視界に映える色彩。その大きな瞳に、情けなく床に寝転がった自身が映る。
彼に、映っている。
遊戯は、ココにいる。

手を伸ばす。間近で触れた頬に、そっと両指を添えた。

「城――…?」

重ねた唇は、確かにそこに在る温もりを伝えた。



-Fin-





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ただでさえ遠い存在なのに、これからもっともっと見えなくなっちゃうくらい遠くに行ってしまうんじゃないかっていう焦燥感といか、なんかそういう感じの何か。



執筆09/03/21
修正10/03/30






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