「早かったですね」
「…ええ、時間には厳しいので」
「奇遇ですね、僕もです」
「そうですか…」
「……」
「……」

社交辞令を交えた会話は短く、レグルスはアゲハが来る前から読んでいた本に視線を戻した

「(会話がない…ていうか早く返してもらおう)」

小さな手をきゅっと丸くし、息を呑む
その瞬間レグルスが急に振り向き、アゲハの心臓をドキリとさせた

「いつまで立っているんですか?座ったらどうです?」
「…えっ…わ、私返してくれるまで座りません!」
「そうですか、じゃあ好きなだけ立ってて下さい。ちなみに座らなければ返しませんよ」
「ゔっ…!!(やっぱりこの人ずるい!拒否出来ないの知ってて言ってる!)」

アゲハは唇を噛み締め、眉間にシワを寄せながら、仕方なくレグルスの横に座った
レグルスはそれを確認し、薄ら笑いを浮かべる

「アゲハ・リドナー・キャンベル、あなた純血じゃないですよね」
「ええ、半純血よ。それが何か?マグル生まれは純血より劣るとでも?例のアノヒトだって半純血じゃない」
「そうですね、ところで、あなたは随分と達者な口をお持ちのようで」
「…何か言われる前に言い返しとこうと…つい…ごめんなさい」

またしても指摘されたが、今度は素直に反省し、しょぼくれたように口をすぼめる
すると、レグルスが読んでいた分厚い本がパタンと音を立てて閉じられた
レグルスは微笑みながらアゲハを見つめる

「まだ自己紹介をしていませんでした。僕はレグルス・アクトゥルス・ブラックと言います」
「…レグルス…星?」
「ええ、そうです」
「素敵な名前…髪がブラックで夜みたいだし、目もお星様みたいで綺麗なのね、あなたにぴったりな名前だわ」
「…ありがとう」

レグルスの名前を初めて聞き、先ほどとは打って変わり、凄く優しい微笑みで語りかけるアゲハ

レグルスはちょっと顔を赤くし、照れくさそうに笑った


2人を取り巻く空気が、ジクジクした嫌な空気から和らいだ優しい空気に変わる

「…そう言えば、昨日のローブ大丈夫でした?」
「うーん…その後出た授業で結局焦がしちゃったから、本当に使い物にならなくなっちゃったの」
「大変だったね」
「うん、またダメにしたのかってジェームズさんとシリウスさんにからかわれちゃった」
「…シリウス、ジェームズ…」
「やっぱり知ってる?悪戯ばっかして、いっぱい罰則受けてる人達」
「まぁ…名前だけなら…」

警戒心が完全に取れたのか、アゲハは楽しそうに笑いかける
レグルスはシリウスとジェームズの名前が出て、少し眉間にシワを寄せたものの、知らん振りを突き通す事に決め込んだ

「でもね、二人とも根は悪い人じゃないのよ。何かと私の面倒見てくれるし、いろんな事教えてくれるし、凄く優しい時もあるの」
「そうですか、ですが彼らの悪戯の裏で、傷つく人もいるんですよ」
「…そうなんだよね…いつもそれを思うと悲しいっていうか、ちょっとフクザツな気持ちになるの……ブラックくんは本当は凄く優しいのね」
「…そうですか?」
「うん、人の事を考えてあげられるのが何よりの証拠だよ」

レグルスは少しずつ心が安らいでいく気がした
そして、またしても照れくさくなり、話題を切り替える

「ありがとう…ところでコレですが…」
「返してくれるの?」
「ええ、僕の条件を呑んでくれれば」
「条件?」
「はい、実は新しいフィアンセが出来たんです」
「オメデトウゴザイマス」

ため息を付きながら素っ気なく言うレグルスに、不穏な様子を読み取り、発音がおかしくなる

「めでたくないです。両親も新しく決まったこの話が気に食わなく、無かったことにしたいらしい…だから僕の彼女になって下さい」
「…ん?」
「決定事項です。拒否権はありません。これからよろしくお願いしますアゲハ」

いまいち所か何一つ話の流れを理解出来ていないため、クエスチョンマークが頭を駆け巡る

「…ちょっと、話の展開早すぎてついて行けないんだけど…」
「今一番簡単に説明したじゃないですか、まだわからないんですか?」
「だから…なんで…か、彼女とか…」
「一番簡単な方法だからです。ま、詳しい事は明日話します。もう暗いから寮まで送りますよ」
「あ…アリガトウゴザイ、マス…?」




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -