「ふー、よし!ご、ご機嫌いかが?…だめだ…ご機嫌麗しゅう…バカみたい」

深呼吸で意気込みを入れ、トイレの鏡に向かって何度も唇をひきつらせてはすぐに拗ねたように唇を尖らせる

「アゲハーあんた何やってんの?顔芸?おもしろくないよ?」

と、言う割には微かに肩が震え、笑いをこらえているように見える友達と鏡越しに目が合う

「違いますー敵にあった時の作り笑いの練習なの」
「敵?」
「そう、敵」

再び頬を膨らませたり、眉間にシワを寄せしかめっ面するアゲハの顔を見て、今度はため息が出そうになった

「…(おばか…)闇の帝王がアゲハを襲いにくるわけ?」
「そんなわけないよー、可愛い顔した意地悪なスリザリン生に呼び出しされたのです」
「呼び出し!?水でもぶっかけたの?」
「違うよ。落とし物拾ってもらったの」

不服そうに眉を下げるアゲハに、意味が分からなくなる
この子はほんとに馬鹿なのか、と疑問が浮上するがあえて何も言わなかった

「……返してもらったら?」
「うーん…そうなんだけど、返してって言ったら呼び出しされたの」
「ふーん…じゃあ告白でもされんじゃない?」
「……はぁ!?」
「その場で返してこないなんて、きっとアゲハに一目惚れでもしたのよ」
「まさか!!」
「どうする?返す代わりに付き合えって言われたら…」

ニヤニヤしながら詰め寄られると、昨日のレグルスの悪戯な笑みが頭に浮かんだ

「ないないないないないない!!!ぜっったぁいに、それはない!」
「わかんないわよー。あ、授業始まるね、じゃあ私次授業あるから行くね」
「あっ、ちょっと待ってよ!私も同じ教科取ってるじゃない」

トイレに備え付けてあるベンチに置きっぱなしだったバッグを拾い、急いで闇の魔術に対する防衛術の教室へと走った


教室に向かう途中の廊下、向かいからやってきたレグルスと目が合う
だがレグルスはすぐに視線をアゲハから前方に戻したので、アゲハは目を見開いて思わず立ち止まってしまった
ドロドロとした嫌な気持ちが一瞬で溢れかえ、アゲハの小さな心を埋め尽くす

「…何よあの態度…」

アゲハとは反対に、パサパサとローブがなびかせ、立ち止まる事なく歩き続けるレグルスの背中を見つめる

「(…行くの止めようかな…いやいや、返してもらわないと困るもん)」

嫌な気持ちを抱えながら走る気にはなれず、結局授業には遅刻してしまった
その後の授業も、廊下でレグルスとすれ違った時の事が忘れられず、授業の内容が全く頭に入ってこないまま、あっという間にお昼になってしまった

言われた時間まであと少ししかない


「あら、アゲハ久しぶりねどうしたの?」
「リリーさん…」

ほとんどの生徒がお昼ご飯を食べ終わった頃、アゲハはグリフィンドールのテーブルでデザートを食べていたリリーの横に座る

「今日は元気ないわね、大丈夫?」
「……ん…リリーさん、ぎゅってして」
「いいわよ、今日は甘えん坊なのね」

スプーンを置き、腰に絡み付くアゲハの腕を優しく剥がすと、優しく抱き締めてくれた
これが凄く落ち着く

「……」
「安心した?」
「うん…リリーさん大好き」
「私もアゲハの事大好きよ」
「ありがとう。私頑張ってくるね」
「ええ、よくわからないけど、元気が出たなら良かったわ。行ってらっしゃい」
「うん!」

優しくて温かい、母のような温もりをくれるリリーの元を離れ、意を決してレグルスが待つあの樫の木に向かった





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