「ない…どうしよう…」

ガサガサと幾ら荷物を漁っても出てこない探し物は、今朝もちゃんとあったし、お昼にも持っていた物だった

アレを最後にローブのポケットから出したのは、確かあの木の下でだ

「あそこにあるのね…私ちょっと行ってくる!」
「え!?アゲハ、もう消灯時間よ!」

友達の制止する声も届かず、アゲハは急いでパジャマの上からローブを羽織り、寮を飛び出す

階段を急ぎ足で駆け登り、中庭を突っ切ろうとした瞬間、後ろから勢い良く引っ張られた

「わっ…!」

突然の事に驚き、心臓が跳ね上がるような感覚がする

「…ミスキャンベル、もうすぐ消灯時間ですよ」
「……あなた…昼間の」
「静かに、もうすぐ管理人のフィルチがここを通る。こっちです」

レグルスはアゲハの腕を引っ張り、中庭の木の陰へと隠れる
2人が木の陰に隠れてから間もなく、フィルチが明かりを灯したランプを片手に広間の方から歩いてきた

「「……」」

フィルチは何も気付かないまま階段を上がり、2人はそれを目で追う

フィルチの姿が見えなくなり、足音が聞こえなくなる
すると、安堵のため息が自然と漏れた

「…ありがとう、助かったわ」
「どういたしまして」
「ねぇ、いつもこんな事してるからフィルチが来るって分かったの?」

木の陰から出て急いで城内に戻る
アゲハの問いにレグルスは一度口を噤むが、アゲハが見つめてくるので嫌々だが答えた

「…たまたま、図書館に羊皮紙を忘れたんですよ。ところであなたはどうしてこんな時間にこんな所にいるんですか?」
「…えーっと…その、落とし物を探しに…」

レグルスの切り返しの問いに、困ったように目をそらし、おずおずと答えだした

「ガラス細工の箱?」
「そうなのです……え?なんで知ってるの」
「あなたが座っていた所に落ちてましたよ」
「やっぱり!?じゃあ私行ってきますので失礼シマス!」

アゲハはレグルスの言葉に目を輝かせ、中庭を突っ切ろうとしたがレグルスにまた腕を掴まれた

「待って、あなたはせっかちな人ですね。人の話は最後まで聞いて下さい」
「……はい」
「それは僕が拾っておきました。ですから今ここにあります」
「ほんと?」
「はい、本当です」
「返してくれるの?」

あまりに真剣で、だけどちょっと不安げな目で見つめてくるアゲハに、レグルスはちょっと意地悪してやりたくなった

「明日また今日と同じ時間にあそこに来たらいいですよ」
「え、なんで…」
「それでは、おやすみなさい」
「ちょっと」
「レディがそんなはしたない格好で、夜中にうろついてはダメですよ」
「え、あっ…」

一方的に言いつけられた挙げ句、ローブから覗くパジャマを指摘され、アゲハは恥ずかしくなり、慌ててパジャマが見えないよう、ローブをキツく体に巻き付けた

ほんの一瞬だったのに、アゲハが顔を上げた時には既にレグルスの姿は何処にもなく、指摘された事と返してもらえなかった事でふつふつと怒りの感情が湧いてくる

「…なによ…あの人…いじわる!」

拾ってくれたと聞いた時はいい人だと思ったのに、やっぱりスリザリン生は嫌いだ
ムカムカした気持ちのまま、自分の寮に戻り、ベッドに潜った



次の日になると、清々しい朝の空気と眩しく暖かみのある太陽のお陰か、ムカムカとした気持ちはベッドに潜った時よりも、軽くなっていた


「まぁなんとかなる。かな…いや、なるでしょ。寧ろならなかったら困るわ」

顔を洗い、すっきりした自分を鏡越しに見つめ、息を深く吸い込んで吐いて、意気込みを入れた



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