禁断の森に近い静かな場所
そこにそびえるように植えられている樫の木は、大地に根が飛び出ているほど大きく、伸びた枝の影で日中でも薄暗いため、殆どの生徒が近寄らない

そんな場所のどこがいいのかと言えば、媚びを売ろうと自分を取り囲む連中がいない事

だからここは入学以来、レグルスの一番落ち着く場所になっていた

そして今日も樫の木に寄り掛かり、最近出来た新しい婚約者にどうやって婚約を諦めさせようかと考えながら、分厚い本を読んでいた


「(…あ、なんでこんなに進んでるんだ?)」

数ページめくった所で、内容が全く入っていない事に気付きふと我に返る
すると、自分がいる反対側から人の声がし、やっと自分以外の誰かがこの場にいる事に気付いた

「おかしいなぁ…間違ってないと思うんだけど…あ、スペル読み間違えてたんだ…ああーでもやっぱこっちのがいいのかなぁ…まぁやってみなくちゃわかんないよねぇーでも失敗したらやだなぁ…」
「…うるさいんですけど」

レグルスは痺れを切らし、木の影から顔だけを覗かせ注意をすると女子生徒は悲鳴に近い驚きの声をあげ、自分がもっていた分厚い本を膝に落とした

「っわぁぁっ!!ご、ごめんなさい!こんなところに人なんていないと思ってたから…」
長い金髪のウェーブが掛かった髪を耳にかけ、慌てて後ろにいたレグルスに謝る

その瞬間、長い髪で見えなかったローブの色が目に入り、レグルスは女子生徒にあからさまに悪態をついた

「…なんだハッフルパフの人間か、馬鹿な声あげてた理由がわかりましたよ」

馬鹿にしたように鼻で笑うと、女子生徒はレグルスを冷たく見据え、あざ笑うかのように言い返してきた

「あら、そんな事で差別なんて、あなた考え方が古くておじいさんみたいね。もう少し若々しくしたら?」

その言葉にカチンときたレグルスは苛々しい口調で彼女に言い放つ

「…あなたのように奇声を発し、他人に迷惑を掛ける馬鹿な行為をする人間に言われたくありません。ちなみにあなた、ローブの裾が花形になっていますよ」
「奇声に聞こえたならごめんなさい。でも私、他人の迷惑にならないよう此処でやってたのよ。ローブは、替えのがあるのでご心配なく。あともう一つ、あなたじゃないわアゲハよ。アゲハ・リドナーラ・キャンベル、あなたなんて呼ばれると不愉快だわ」
「……そうですか、それじゃあ…」
「言われなくてもこんな湿っぽい所にいつまでも居たくないのでもう失礼します。さようなら」

レグルスの言葉を遮り、アゲハは広げていた荷物を纏め、足早にその場から立ち去った


「…まだ何も言ってないのに…せっかちだな…」


ため息を付きながら小さくなるアゲハを黙って見ていたら、背後から太陽の明かりに反射し、チカチカと光るガラス細工のような小さい箱が落ちているのに気が付いた
箱の裏側にはミツと刻まれている

「(彼女の持ち物か…)」

少し戸惑いはしたが、結局小さなその箱をローブの内ポケットにしまい、レグルスも荷物をまとめて城へと戻った




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