レグルス・ブラックという彼の名前を
レグルスとファーストネームで呼ぶのも
レグルスの隣にいるのも
周りからの冷たい視線も
友達からの答えられない質問攻めも
全てに慣れ始めてきた
付き合って3ヶ月後のお昼過ぎの事
レグルスが図書館に本を返却しに行っている時の事だった
レグルスと出会った木に寄りかかりながら薬学の教科書を読んでいると、目の前に複数の人影が現れる
シリウス達だと思い顔をあげた瞬間、アゲハの顔が引きつった
「ミスキャンベル、ちょっとよろしくて?」
「…む、無理デス…」
目の前にいたのはシリウス達ではなく、4、5人のスリザリンの女子生徒で、アゲハを取り囲んだ
「何よ、あなた先輩に刃向かう気?」
「いえ、レグルスが知らない人間には絶対ついていくなと言っていたので」
「あらあら、まるで恋人同士というより主とペットね…レグルスさんの気まぐれも困ったものだわ、マグルの野良猫を側に置くなんてブラック家の品ががた落ちよ」
杖片手にアゲハを呼び止めたリーダー格の女子生徒が馬鹿にしたように言うと、クスクスと他の女子生徒が笑い声をあげる
その光景を目を細めて見たアゲハは、とびきりの作り笑顔で皮肉を言い返した
「スリザリン生は賢い生徒ばかりだと思っていましたが…どうやらそうではないようですね」
「……なんですって?」
言われた言葉にイラつきアゲハを睨むと、アゲハは態度を変えずそのまま言い続けた
そして、胸の前で抱えている教科書の下でローブの内ポケットにしまっている杖にそっと触れる
「私を選んだのはレグルスです。それに彼を侮辱するような発言、一体なんのつもりですか?」
杖を出した瞬間、リーダー格の女がすかさず呪文を投げかける
「黙りなさい!エクスペリアームス!」
「きゃっ…!」
静かな森の近くでアゲハの小さな悲鳴と杖が弾く音が響く
その反動で木に止まっていた小鳥が数羽飛び立った
「私達はレグルスさまを心配しているから言っているのよ!あなたはブラック家に相応しくないと言ってるのがわからないようね。困った野良だわ!」
「…っブラック家に相応しくなくてもレグルスに釣り合うようなレディになるよう努力はしますわ」
自分の思った事を噛まずに言い切ったアゲハはホッとするが、杖も逃げ場も失ってしまった今、どうやってこの場をしのぐか頭を悩ませる
幸にも杖を出しているのはリーダー格の一人のみ、その人を押し退けてそのまま真っ直ぐ走ればハグリットの小屋まではたどり着くはず
「…生まれが生まれですもの…無理に決まってるわ」
アゲハが悩んで僅かな隙を作った瞬間、唯一杖を持っているリーダー格の上級生が素早くアゲハに近付き、杖を喉に触れさせ身動きを取れないようにした
「…先輩、僕の彼女に何をしているんですか?」
「……レグルスさん」
「…レグ…ルス…」
「杖を下ろして下さい。彼女に危害を加えたら怒りますよ?」
「…っですが…!」
杖を向けていたリーダー格の女はレギュラスの冷たい言葉と視線に言葉を詰まらせ、ゆっくりと杖を下ろした
「…フンッ…レグルスさん、その娘を庇った事、絶対後悔しますわ!!」
リーダー格の女が捨て台詞を吐くと、女子生徒達は急いで逃げ出した
「…全く…仕方のない人たちですね、アゲハ怪我無い?」
「う、ん…」
「どうしたの?怖かったの?」
ふと頬に添えられたレグルスの暖かい手
その手を逆に自分の冷たい手で包むように触れる
「びっくり、したの…杖も弾かれちゃったし、怖かった」
「…アゲハ、もう、大丈夫。怖い思いさせてごめんね」
手を離すと、レグルスはそっとアゲハの背中に腕を回し、きつくだけど優しく抱きしめた
とくん、とくん、と肌から伝わる脈の音
アゲハは同い年の男の子に、こんな風に抱きしめられたのは初めてで、恥ずかしくなる
だけど反射的に抱きしめ返してしまった
それはレグルスも同じで、こんな風に誰かを抱きしめたのも、抱きしめ返されたのも初めてで、どのタイミングでどうやって体を離したらいいのか分からなかった
暫く抱き合ったままだったが、シリウスが来たのをきっかけに、慌てて離れたのは言うまでもない