「さぁ、授業に遅れた理由は何?」
「まさかブラックと一緒にいたの?」
「どうなのよアゲハ!」
「……えーと…」
シリウスとジェームズに解放された後、遅刻して授業に出席したアゲハはみんなの注目を浴び、冷や汗をかきながら授業を受けた
やっと嫌な冷や汗から解放されたと思ったら、今度は友達から今まで何をしていたのか問い詰められる
大広間で何も答えずしどろもどろしていると、噂をされていた彼が来た
「アゲハ、図書館について来てほしいんだけどいいかな?」
「…ブラックくん…分かったわ」
さり気なくアゲハの手を握り、ざわめく周りを気にすることもなく堂々と大広間を後にした
「アゲハ、ブラックくんじゃなくてレグルスと名前で呼んで」
「え、いいの?」
「当たり前です。僕はあなたの恋人なのですから」
「…こい…びと…」
今更ながらその響きに胸が高鳴り脈を打つのが早く感じる
ちょっとだけ大人になった気分だ
朝返すことを忘れてしまってた本を返却し、静かな図書館で騒ぎたてる人間はいないからとそのまま図書館にいることにした
「ねぇ、レ…グルス、何の本を読んでるの?」
「んー?薬学の授業で出たレポートを纏めるのにちょうどいい本は無いかなぁって、見てるんだよ」
分厚い本を開いては戻してを繰り返すレグルスに、アゲハは天文学に関する本をぼぅと捲りながら聞く
「ふーん…何について纏めるの?」
「真実薬の威力…だったかな?」
「…じゃあこの本がいいんじゃない?」
席から立ち上がり、レグルスが覗いていた棚の反対側から一冊の本を選んで取り出しレグルスに手渡した
「…愛の妙薬の真実…?アゲハ、なんか違うよ」
表紙に書かれてる文字を見て半分呆れながら本をアゲハに返そうとしたが、反対に押し返される
「そんなことないわ。ほら、愛の妙薬を打ち破るには真実薬を使うのがいいって書いてあるもの。この本ね、愛の妙薬で彼を取られた女の人の逆襲の本なんだって」
「……」
「それに5章から8章にかけて真実薬の威力が書かれてる。私たちまだ2年生だし、レポートに纏めるなら分かり易くてユーモアたっぷりの方がいいのよ」
「そうですか…」
熱弁するアゲハに半分呆れながら相打ちをするレグルスは、ペラペラと本を捲ってみる
「これジェームズさんに教えてもらった方法よ。私これで平均的よりも25点も高かったんだから!」
「…先生にもよるんじゃない?」
「スクラボーン先生なら点高くしてくれるわよ」
「……アゲハを信じてみるよ」
「うん!」
羊皮紙を広げて本の内容を書いていく
書き始めたレグルスを見て、アゲハは自分が読んでいた本に目を落とした
10分もしないうちに読んでいた本を閉じて軽く背伸びをし、ふと隣にいるレグルスをちらっと横目で見る
「……」
青白い顔が日の光で透けるような白さに見え、とても綺麗に思える
机に突っ伏して暫くレグルスの横顔を眺めていると、なんだか眠くなってきた
温かい日の光に包まれうとうとしていると、自然と意識が遠のいていくのを、ゆっくりと頭の中で理解しながら目を閉じる
「……アゲハ?」
「……」
「…寝てる?」
「……」
りんごのように瑞々しい唇から微かに息が漏れ、桃のように白い肌からピンクのグラデーションに染まった頬はスベスベしている
「…アゲハー…」
「…ん…」
アゲハの額に手を添え、優しく前髪を梳くと少し汗ばんだ額が見えた
そこに冷たい自分の手を置いて、滑らせるように額から頬を伝わせた
誰かと過ごすこんな穏やかな時間は久しぶりで、少しだけ、レグルスの心を安らがせた