「何でもなくて良かったね」
「ん、アゲハは心配し過ぎなんだよ」

レグルスは結局軽い打撲で済み、マダムポンフリーの治療で痛みが消えた肩を撫でながら苦笑する

「だって、転びそうになったのを助けてもらったし、痛そうだったから」
「…ありがとう」
「……」

レグルスがお礼を言うと、アゲハは螺旋階段の一番下の段で立ち止まった

「アゲハ…?」
「…びっくりした…あなたでもお礼言うことあるのね」
「…失礼にもほどがあるでしょ、普通に言いますよ」

レグルスは鞄を背負い直し、アゲハが自分の所まで来るのを待つ

「だって初めて聞いたんですもの」
「昨日の今日で出会ったばかりのアゲハにお礼を言うことはありませんよ」
「婚約の件は!?私に恋人になってもらいたいんじゃないの?」
「あれは契約です」
「もっと違う言い方できないのー!?」

眉間にシワを寄せ、膨れっ面になるアゲハに、レグルスは呆れたように無表情でスルーする

「……ぼぅっとしてると授業に遅れますよ」
「……」
「拗ねないでください」
「拗ねてない!」
「はいはい」
「ん゙ー!!」

両頬を軽く摘まれ引っ張られる
当然のように裏返った変な声が出てしまい、顔を真っ赤にして抵抗を重ねる

「(柔らかい…よく伸びるな…)」

レグルスは面白いのか、今にも笑い出しそうな顔で、なかなか手を離そうとしなかった

「んっもー!やめてよね!」

そんなレグルスに痺れを切らし、アゲハは顔を振って無理やり手を振り払う

「ごめん、頬、赤くなっちゃったね…」
「っ…!!」

堪えていた笑いが治まり、今度は少し赤らんだアゲハの頬を包み込むように優しく撫でる
レグルスの手に包まれたアゲハの頬は、もっと熱が集まり赤く染まった

「…も、もう大丈夫。授業始まるね、行こう」
「あ…はい」

初々しい反応に驚き手を離すと、アゲハはすり抜けるように誰もいない廊下を駆け足で逃げた

「ちょっとついてこないでよ!」
「アゲハが逃げるから」
「スリザリンはグリフィンドールと薬学の授業でしょ!地下に戻ってよね」
「僕はいいんです。先生に事情を話せば許してくれます」
「狡猾…ズルい!さすがスリザリンね」
「なんとでも言ってください。オトボケのハッフルパフには出来ない真似ですから………っアゲハ前!」
「え?」

夢中になってレグルスと言い合いをしていると、目の前にいる人物に気付かず、レグルスの声も一足遅く、人にぶつかってしまった

「…っぷ!ご、ごめんなさ…い…」
「大丈夫ですよレディ、もう離さないからねー!」
「ジェームズさん…!ちょっと離してください!」

小柄なアゲハを軽々と抱き上げ頬に何度もキスをする
嫌がって身をよじればもっとキツく抱きしめられた

「少しぐらいいじゃないか、お兄たん最近アゲハが相手してくれなくて寂しかったんだからね」
「だって最近課題が多かったの」

拗ねたようにむくれると、ジェームズはグリグリと頭を撫で回す

「言えば手伝ってあげたのにー」
「だってあんまり頼るのも悪いかと…」
「お兄たんなんだから遠慮しないで!」
「ぎゃっ!苦しい!」
「ジェームズ!いい加減本題に入るぞ」

ジェームズがアゲハを抱きしめ、じゃれついていた合間、レグルスは珍しく仏頂面のシリウスに捕まっていた

レグルスの腕を引っ張り、ズルズルと引きずりながらジェームズに近寄るシリウスに、ジェームズはちょっといいかな?とアゲハに優しく問いかけ、誰もいない教室に二人を連れて入った

「さて、どういうことかな?」
「…ナニガデスカ?」

一番後ろの席に二人を座らせ、その前の席の椅子を後ろに向けて座ったシリウスとジェームズは同時に足を組む

「んー、じゃあ二人の関係は?なんで一緒にいるの?」
「それは…」
「レイブンクローから朝帰りのシリウスくんがね、アゲハがレグルスくんの上に跨って乳繰りあってるの見てたんだって」
「「……(チチ、クリ…?)」」

急な事で訳が分からず、警戒するレグルスに対し、アゲハは困ったように眉を下げる

そんな2人に痺れを切らし、ジェームズが珍しく真面目な口調で言い出した

「アゲハ、お兄ちゃんはね、二人が付き合っててもいいと思うよ。でも一線を越えるのは早くても四年生になってからにしてね?僕ミツさんに合わせる顔無くなっちゃうから」
「ジェームズ!」
「ははっ、僕の本心だよ」

優しく微笑むジェームズに、シリウスは綺麗な顔を歪ませて怒る

レグルスはシリウスが怒る理由を理解していた
自分達を思い、本気で心配しているのだ
それに、レグルスは例のあの人を支持していて、無垢なアゲハが巻き込まれないかと思っていることもわかっていた

「…レグルス、アゲハ、俺が今朝見たことは、俺が思っている関係だと解釈していいのか?」
「…はい、彼女は僕の恋人です」
「ブラックくん!」

思わず立ち上がり、不安げな顔でレグルスを見つめる

「いいよアゲハ、どうせ他の人間にも明かす事になるんだ」
「……」
「これでもう解放してくれませんか?」
「…分かった」
「…アゲハ行こう……兄さん、たまには家に手紙くらい出してあげて下さい」
「気が向いたらな」

レグルスがアゲハの手を握って教室を出る際、レグルスがシリウスに言った一言がアゲハの中で引っかかった

だがその事についてアゲハが何も聞かなかったのは、いつかレグルスの口から聞けると思ったからだった





「不安が2割、心配が4割、大切に思って陰から見守っていた妹と弟がいっぺんに離れて寂しいのが8割ってとこ?」
「うるさい。つーか4割余分だぞどっから湧いてきたんだよ」
「僕の心の広さは常に40%割増だから」
「意味わかんねぇよ」




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