「くにみつ、ちゃんと見てて!」
「…うん」

バーに見立てたフェンスに手をかけてから始まったバレエのレッスンはもう1時間ぐらい経っただろうか…
数日前にテニススクールで知り合った女の子、花音に何故か懐かれ、今ではスクールが終わってから毎日のように花音が踊るバレエを見せられている

「バットマン・タンジュ!」
「うん…」
「えと…1番から……ロン・ド・ジャンプア・テール!」
「じょうずだ」
「…最後にピルエット!2回も回れるようになったのよ」
「すごいな」

バレエなんて何が何なのかわかるはずも無く、適当に相槌を打ち軽くあしらっているのに花音は凄く喜ぶんだ

「うん!毎日練習してるの」
「…そうか、花音はバレエがすきなのか?」
「だいすき!だってね、おばあちゃまがバレエすきだから花音もすきになったのよ!」
「…よかったな」
「うん!」

まただ、別にたいした事を言っていないのに、笑顔でうなずく
初めから変な子だとは思っていたけど、やっぱり変な子だと思う
だいたいここはテニススクールであってバレエスクールではないのに、ここでバレエをやる事自体変だ
外なのに
まぁ…スクールが終わった後で僕以外誰もいないから、いいのだろうけど…

「花音…そろそろ帰りたいのだが…」
「じゃあ花音も帰るね!駅まで送ってって」
「わかった」

木陰に置いてあったテニスバックを小さな体で背負い、俺の所まで走ってくる
お前のその小さな体ではテニスバックを背負ったまま走るのは危ないから、走るなと何度も言ったのに…

最初は何かと絡んでくる花音が嫌で仕方なかった
なのに、今では危なっかしくて放っておけない花音の事が四六時中気になって仕方ない
子供の心境は変わりやすと聞くが、俺もまだまだ子供なんだなと思った




小さい手塚の一人称は僕だといいなぁっていう妄想の産物。


*バットマン・タンジュ
脚を前にすべらせるように出して戻すこと
*ロン・ド・ジャンプア・テール
基礎ポーズの1番の足から片足を前に出し横を通って後ろまで回すこと
*ピルエット
その場で素早く回転すること