▼Not冷たい先輩



「ぶははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」



昼休み、四天宝寺中学校、3-2教室。
四天宝寺1、イケメンと名高い男の爆笑が響き渡り、もう一人四天宝寺中学校1、イケメンと名高い男の手が火を噴いた。


ズバンッ
ゴッバキッ

















「 殺 す で 」














ハリセンを持って白石の頭をグリグリと踏み付け、ゴミを見るような目で見るのは財前光。
ハリセンは財前の一応関西人という義理から持ってるだけなのだが、財前が一度持てばただの凶器と成り果てる。
常人のハリセンの効果音がパーンだとするなら財前が奏でるハリセンの効果音はバッッッッッッチィィィィィィィンである。




この二人は四天宝寺中学校で1のイケメンだと名高い男だが、如何せん性格に難がある。

白石は言わずと知れた変態な為、他校の女子から観賞用だともっぱらな噂だし、財前は形がよい唇からほとばしる毒舌に大体の他校の女子の心が折られる。

しかし四天中学校にいる女子は大体がただ者ではないので告白する猛者は多い。
つまり、この二人は四天宝寺中学校1モテる二人組である。




「人が真面目に話してんのや。真面目に聞け。真面目に聞けないなら目玉剥がしとるで」

「や、やって……!!ブッ、ククッ……!!あ、あのジャイアンを素でこなす財前がやで……!?ゴフッ?!」

ズドンッと今度は財前の足が火を噴き、白石は奇声をあげて床に埋め立てられる。
ドクドク流れる赤いのは白石の鼻血だろう。
だがまぁ似合うから放っておこう!、というのが3-2クラスメートの(自分は関係ないですよ)スタイルである。
内心では、あの子早く来てくれ!!というクラスメートの叫びがこだましている。

「人がお礼言ってるんや。ちゃんと聞け。」

「い”、い”や……やって、な……?財前が照れるなんて、ンゲフッ」

地から這うようにはい上がってきた白石の言葉にチッ、と財前は舌打ちをする。(ついでにまた深く白石の頭を沈める)
頬が少し赤いのは決して気のせいではない。

「……あんなに可愛い謙也が見舞いに来たのはお前のおかげやし。やからちゃんとお礼言ってるんや。黙って受け取れ」

「これお礼言ってる態度………?」

相変わらず白石は地に伏せ、財前の足は白石を踏み付けたままだ。
この異常な光景、哀しいかな、3-2にとっては通常運転である。

「こんにちはーっ」

ピク、と財前が反応したと思うと、全力で白石を床に埋め立てる(ズッッッッッゴンッという音にクラスメートは身震いした)と、さっと白石から足をどかした。

「あ、えーっと……忍足ですけど……光クン居ますか?」

「いるいる。めちゃくちゃいるから早く行ってあげて」

クラスメートにそう言われ、パタパタと謙也は教室後方にいる光に寄っていった。

「光クン!」

「謙也、」

「なんや謙也どうし、ゴフッ」

すかさず白石も会話に入ろうとしたが財前に後ろ足で蹴られそれは叶わなかった。

「いや、あの、一年生皆の日誌持ってきたんですけど、」

「ああ、ありがとな。」

「………白石………部長は、」

チラ、と財前の足元に転がる白石を見て、謙也はため息をついた。

「………すみません、白石また何やらかしましたか?」

部長呼びもやめてすっかり白石の幼なじみとしての態度になり、完全に呆れた様子の謙也にクラスメートは慣れてるなあ、と全員一致で心に思ったという。

「ん、謙也は気にせんでええよ。ただの天誅やから」

「あ…えと…」

そういって仄かに笑う財前に謙也はさっと顔を赤くしてうろたえる。
オーラはすっかり淡いピンク色、何にも入れない二人の世界に成り果てた。

「な、謙也。一緒にお昼食べへん?屋上とか結構穴場やで」

「え、でも………」

「俺はええから謙也は財前先輩と食べや。俺は小春でも誘うから」

「あ、お、おおきにユウジ!」

3-2の教室の外で苺ミルクを啜りながらそう言ったユウジは慣れた様子。
財前をチラ見するとウインク一つ。
軽く手を振りながら去っていった。さすが、空気を読んでいる。

「………さすが謙也の親友やな」

「え?」

「ん、何でもあらへんよ。行こうか」

「はい!」

二人は淡いピンクオーラを撒き散らしながら(何人もの非リア充の心を薙ぎ倒しながら)、屋上に並んで向かう。
地に果てた白石を放って。




これが3-2のいつもの光景だが、如何せん一つだけ誰もが腑に落ちない事があった。



「…………………なあ、何であの二人付き合ってないん」

「さぁ…………」




そう、完全に空気は恋人同士のそれであるというのに、如何せん二人は付き合っていないのであった。





















「なぁ謙也。お前財前先輩に告白せんの」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

ユウジがいきなり頭おかしいことを宣ったのでたまらず叫ぶ。
アホちゃうかコイツアホちゃうか!!

「お、俺なんかと光クンが釣り合うはずないし……今は後輩として可愛がられるだけで幸せやねん……」

「今は、な」

「ちちちちゃうわ!!」

バシバシと机を叩いて抗議するがユウジはうっさいなコイツ、という視線しか向けてくれない。何でやねん!!

「だ、大体告白して散るようなことがあったらどないすんねん!!引きこもるで!!」

「それは100%あらへん」

「そんな保障どこにもあらへんやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ゴロゴロあるっちゅーねん……」

ユウジが呆れたように言ったと思うとガラッとドアが開いて、現れたのは相変わらず変態なセリフを口癖にする変態。

要するに変態。
つまり変態。
イコール変態。

白石が立っていた。




「いたいた謙也、用事頼まれてくれん?」

「白石……部長。何や、用事て」

「買い出し頼みに来たんや。オサムちゃんが競馬で行き忘れたんやって」

呆れたように話す白石。
白石はいつもこうやって部長面しときゃええのに……
ほんま勿体ないことしてるで。

「俺やないとアカンの?その用事。ユウジやって居るやん」

俺の言葉にユウジは至極めんどくさそうな顔をした。
お前やって後輩やろ!!

「別に一氏でもええけど……」

「ならユウジで」

そう言うと白石は息をついて、ユウジに買い出しのメモを渡した。

「……まあええわ。ほな一氏は4時半に校門な。財前と一緒に行って貰うで」

「俺やっぱり行きたい行かせて下さい神様仏様部長様!!」

ガシャン、と椅子を薙ぎ倒して力説して言うと白石はにやー、と嫌な笑みを浮かべた。

「別にええけど一氏に頼んでもうたから一氏に頼みやー。俺は知らないでー」

「ユ、ユウジ!」

「モスで奢り」

「マ、マクド!」

「モス」

「マクド!」

「俺行く「モスで奢ります!」


半ば奪い取るようにメモをユウジから貰う。
よっしゃデート(?)の約束ゲットやで!

あの有名なセリフin関西弁を心で叫ぶ。
これに、ぴっぴかちゅーが入れば完璧やったのに……

いや、もう買い出しだけで幸せやろ!
ブンブンと首を振って前髪をいじくる。
おかしないよな……?

「謙也ぁ、財前とのデートが楽しみなんは分かったけど今直してもまだ仰山時間あるんやでー?無駄や無駄っ」

白石に囁くように言われて顔に血が集まる。
白石に怒鳴ろうと振り向けばもう教室の外に出て手を振っていた。
お前のそういう時の俊敏さが無駄やっちゅーねん!!




















放課後になって浪速のスピードスターよろしくダッシュで校門に向かう。
幸い光クンはまだ来てないよやった。

「楽しみやなぁ……」


光クンとは居れるときに居りたい。
光クンに恋してからはそればっかり考えては頭がのぼせる。
あの時のお見舞いはほんま幸せやった!
今日も今日とて………………


あれ、もしかして白石さりげなく俺に協力してくれとる……?


「アカン、バレてたんや……」

俺の恋心にはどうやらシャッターがないらしい。
つまりいつもだだ漏れっちゅーことやんな。
あれ、それって光クンにバレてるっちゅー………


「ッ〜〜〜〜!!」


穴があったら、いや、作ってでも入りたい!
アカンここコンクリートやないか!!
なんてこと!
とパワーショベルあたりがないか考えてぐるぐるする。


「百面相」


「ふぉぁ!!?」


振り向けば苦笑したように笑っている光クン。
アカンほんまかっこええ……!

「ほな、行こか」

「……はい!」

歩きだした光クンをトタトタと追う。
無造作にある右手を掴みたくてしゃーない……!!

もうほんま俺光クン大好きやな!!
事実やけど!!

頭で自分にベシッとツッコミを入れれば今度は顔がにやける。

なんて単純な機能しかついてないんやろ!!

「今回の買い出しは結構大変やからな。宅配でええって。おやつは持つけど」

「まあ今日はどうせオサムちゃんのつまんない講座やし」

「言うなぁ謙也」

くしゃ、ときしんだ俺の頭を撫でる光クンの手はほんまに優しくて、心臓が早くなる。

期待してまう、から、切なさも相乗効果にくるんやけどな。





















「買い出し多過ぎや……!!もう夜遅いし白石の奴……!!」

俺はゼハゼハ言いながらベンチに座ってひたすら悪態。
何で夕方から計20以上の店回らなアカンねんっ……!!

「ほら、」

「ぅ、あっ」

ぴた、と頬に触れた温かさにびっくりして振り向くとプラプラとココアを揺らす光クン。
やっぱり先輩なだけあって、体力は俺よりずっとあるんやな。
全然疲れてないみたいやし。

「少し休んでから帰ろか」

その言葉にこくり、と頷いてベンチに座った光クンを横目で見る。
二人の間の距離、およそ10cm



「今日はおおきに。買い出し大変やったやろ?」

「こ、こちらこそありがとうございました!」

俺がそういえば光クンはいい子いい子、と頭を撫でてくれた。
この瞬間がいっちゃん好きや。

「ワンコみたいや謙也」

「ワンコ……?!」

え、俺犬と同等ってことかいな?
アカンそれ地味にショックや。

「あ、せや。ポッキー実は別に買ってん。食べへん?」

「あ、食べます!」

「んじゃ、はい。あーん」

すっと差し出されたポッキーの位置は手で受け取るにはやや高め……てか、あーんて、あーんて。

恐る恐る口をあけてパクリと食べれば、光クンはかわええ、と微笑んでくれた。
胸からのズキューンって音が確かに聴こえたで。
ほんまかっこええ……!!

思わずベンチの背もたれをバシバシ叩けば、振動でポッキーがぐら、と落ちそうになった。

「あ……!!」

慌てて落とさないように手を伸ばせば重なる手。
結局ポッキーはパラパラ地面に落ちてもた。

けど今はそんなん関係あらへん。


反射で顔を上げれば少し驚いたような光クンの顔。
きっと俺もそんな顔してるんやと思う。


街頭に柔らかく照らされる光クンは、かっこよくて、憧れで、それはもう見惚れてまう美しさで―――




















「………………好き……」





















「………ヘッ?」


光クンらしからぬマヌケな声。
え、今俺なんて言うた?


たしか俺今―――――




 "好き"




ボフッと顔に集まる熱。
ちょい待て俺アカンやろアカンやろアホちゃうかぁぁぁぁぁぁ!!?


「ぽ、ぽぽ………………ぽ!」

「ぽ?」

「ポッキーが!!好きです!!」

「ポッキーが……あ、ああ!そやな!俺も好きやでポッキー!善哉より下やけど!」

「俺もおでんの牛すじより下やけど!」


二人して何言ってるんかよう分かん!けど!

とりあえずポッキー好きや!




はた、とそこで手に違和感を感じて見ればお互いに力説しあったからかお互いの手を握り締めあっていた。

それに同時に気づいたからか手が互いにビクリと反応した。

ちら、と視線を上げればバチッと絡む視線。
心臓が痛いくらいに跳ねる。

光クンの顔が、赤い。
多分、俺ももっと赤いと思う。













「………帰ろ、か」



きゅ、と手を繋いだまま光クンは立ち上がって言った。

少し、不安げに。




「……………」

こくり、と頷く。
普段やかましいくせに、こういう時は全然働かない俺の口は一体なんやねん。


それでも、ぎゅっと光クンの手を握れば、光クンもぎゅうっとしてくれた。




そのまま、俺達は何も言葉を発さずに歩いていった。

ゆっくりと。









俺は、光クンにどう思われてるかは分からへん。

けど、期待していいのか。

それは、この少し冷たい光クンの手が教えてくれそうな、気がした。





















Not冷たい先輩










(家に着くまでしか握ってられないんやよな……)
(離したくあらへんなぁ、もっと、ずっと)
(一緒にいたいなぁ、)
(離したく、ないなぁ)

((この時間が永遠に続けばええのに))















――――――――――――――
無駄にグダグダ長いです!
けど至極楽しいんですこの両片想いが!!

リクエストして下さってありがとうございました!!





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