いいひとにならないで(一松)
なまえがこんなクソ寒い中、よくわからない限定の飲み物飲みたいって僕のこと引っ張りだした。適当なコートを着て、なまえが去年作ってくれた6人でお揃いのぼろぼろのマフラーを巻いて外に出る。

ボーナスとローンで買ったと自慢してきた軽に乗り込みちょっと遠いショッピングモールまで何故か僕が運転、正直凄くめんどくさい。

「楽しみだなぁ」
「たかが限定のよくわからない飲み物のために運転してる僕の身にもなってほしいんだけど」
「なによ〜野良猫に餌あげるくらいしか用事ないでしょ!付き合って」
むすっと頬を膨らましながら指先は紫のタバコケースからタバコを1本出した。

最近暇つぶしで行くパチ屋でもめっきり見なくなった女の子でタバコ吸う子。
タバコのせいか気が強そうとか性格悪そうとか、いい奴じゃなさそうとかパッと見で思われてる。

なまえの良さはもっと別のところにあるのに、そんなのだけで判断する思考回路には納得いかない。まぁいいか、変な虫よらないだけマシ。

一生死ぬまでやめないで欲しいからって去年はマフラーのお返しにタバコケースなんてあげた。

色のせいか「独占欲強くない?」とトド松に言われる始末だった。しょうがないじゃんなまえの持ち物紫多いんだし。

体に悪いからとか、お前将来ガキ作るときどうすんのとか、言いたいことはたくさんあるけど全部言い返されそうだから口を噤んだ。

「カプチーノの泡でね、絵を描いてもらえるんだよ」
「ふーん」
私が飲みたいのは期間限定フレーバーティーだから書いてもらえないけど、一松のには描いてもらおうね。って笑う。大して興味もないけど、楽しそうに笑うなまえの顔をミラー越しでしか見れなくて勿体ないなとは思った。


ショッピングモールについて適当に駐車して(荒々しいって怒られた)お目当ての店に入る。行く前から薄々わかってたけど場違い感が凄い。やっぱりお前こういうところはトド松と来るべきだよ、と言いかけて怖気づいてなまえを見た。

メニュー表に乗っていた可愛い猫の絵が描かれたカプチーノを見てくすくす笑いながら「一松これね」と言う。

あまりにも楽しそうに笑うから運転して良かったとか、場違いだけど来て良かったとか、今日来たのがトド松じゃなくて僕で良かったとか色々考えた。

「お次のお客様どうぞ」

「えっと…季節のフレーバーティーと、このカプチーノの泡で絵を描いてもらうやつお願いしてもいいですか?」
「かしこまりました。絵は何にしますか?」
猫でいい?と聞いてくるなまえに頷けば店員さんが微笑ましそうに笑った。

「彼氏さん猫がお好きなんですか?」

「かっ…」
彼氏?なまえの?不快がるだろうな、って慌てて訂正しようと口を開いたらかぶせるように声が聞こえた。

「そうなんです、私のことほったらかしにするくらい猫好き」
待って。
なんで否定しないの。

「あらあら」
と笑う店員を横目になまえにしか目が行かなかった。

「猫に優しくて良い方なんですね、彼氏さん」
「ふふ、そうなんです」
ちょっと待って。何この女、からかってんの?そうだとしたら凄い性悪。やっぱり訂正、いい奴からは程遠い。


出来上がったカプチーノと季節限定だかなんだわからない飲み物持って喫煙席に向かう。胸がドキドキするしなんかすごいイライラして気持ち悪い。

「なんで一松怒ってるの」
「お前なんで否定しなかったの」
「彼氏?」

きょとんとした顔で首を傾げるなまえに確信した。

「(からかってる)」

それがわかった瞬間ドキドキはどっかに消え失せて、イライラだけが残って折角少しだけ可愛いなと思ったカプチーノも全部頭からかけてやりたいとすら思った。

「か、彼女に見られて嬉しかったなあって」
「は?」
ナニイッテンノ。

柄にもなく顔を赤くするなまえにさっきのドキドキが戻ってきた。

「でも良い人だって、一松の良さは私だけ分かればいいのにね」
「…馬鹿じゃないの」

ドキドキする心臓ごとこのカプチーノで流し込めればいいのに、猫が可愛くて飲めない。僕も一緒だよ、お前が他の奴に良い人だなんて思われたくない。