結婚してください(おそ松)
「なぁなぁ俺ほんとさーなんで六つ子なんてめんどくさい兄弟の中に生まれたと思うー?長男になんか生まれたくなかった」
「知らないよ」
夜勤明けの水曜日、朝9時に家に着いて寝て起きたら(ニートの)彼氏様がご丁寧に同じベッドで寝ていた。私が起きたと同時におそ松も二度寝から目が覚めたらしくおはよ、と大きい口であくびをしながら唐突に愚痴をこぼしてきた。
「ていうか前も言ったじゃん来るのはいいけど、寝てる時に合鍵使って入ってこないで」
「弟達にまで冷たくされて彼女にまで冷たくされるなんて俺ほんと可哀想!」
「だから知らないってば」
なんだ弟達にまで冷たくされるって、構ってちゃんか。パジャマだといくらか寒い昼過ぎ(時計を見たら13時だった)胃の中はムカムカしてるけどなにか食べないととベッドを出た。
「チャーハンでも作ろうか?」
「えっ珍しい…」
「俺だって夜勤明けの可愛い彼女を労ろうと思うことあるし!」
「はいはい、でも胃が痛いからチャーハンはいらない。適当に自分で作るよ、おそ松は何食べたい?」
「カップ麺でいい」
「栄養偏るから駄目、せめて野菜切って野菜ラーメンにする」
「なまえ…」
うるうるとわざとらしく目をうるませながらベッドに座るおそ松に苦笑いをした。頼りになるんだかならないんだか。甘やかすのが上手いんだか、甘えるのが得意なんだか。
「あーーーほんと可愛い!!俺の彼女ほんとハイスペック!!幸せで死にそう!」
「大袈裟、ていうかハイスペックな彼女見習って働いてよね」
「それだけは勘弁」
No!と両手を前に出し否定するおそ松。はぁこの男は…と思いながらも付き合いをやめないから周りは心配する。ニートと付き合うなんてお先真っ暗じゃないって。周りは年齢的にも結婚急いでるしね。
でも、夜勤明けの真っ昼間にキッチン立ってご飯作ってる時、小さい1LDKのリビングから聞こえるテレビの音とかさ、おそ松が多分寝てる時にずっと抱きしめてくれてたんだろうなってパジャマに残る匂いとかさ、もう癖になってるんだよね。
「おっなまえ幸せそうじゃん」
「幸せだよーおそ松がいてね」
「くっ…天使がいる」
「どうしたのカラ松でも乗り移った?」
「ちょっとこのタイミングでカラ松やめてくんない?」
「ひゃーい」
後ろから頬を引っ張られてニヤニヤする。自分の弟にまでヤキモチ妬くとかほんとなんなんだろこの人は。
滅多にないけどおそ松に暫く会わないでいる時に友人から「別れた方がいいよ男紹介するって」と言われて少しも靡かないわけではない。でもほら、誰と付き合ったって欠点はあるし、そういうの補うことが大事じゃん。
「ごちそうさま」
「はーい」
ぺろりと野菜がたくさん入ったラーメンを食べ終えたおそ松がシンクに食器を持ってきた。食器洗うから、と本当に今日は珍しく気を使ってくるからなんだか調子が狂う。
「今日はどうしたの?」
「えーなまえ労る日だってば」
「えー毎日それならいいなぁ」
「あっ」
珍しく顔を赤らめて目を泳がすおそ松に首をかしげる。
「どうかしたの?本当に今日おかしいよ」
「いや…あー…」
「なに、風俗にでも行ったの?」
「行ってねーよ!」
「いや風俗は浮気に入んないから別に怒らないけど…」
「え、ほんとに?…じゃない!あのさ…」
あー、とか、うーとか中々ハッキリしないおそ松になんだかお腹いっぱいで眠くなってきた。
「超眠い」
「え、あ、そうだよなごめん?」
おそ松が謝った!なんて失礼な事を考えながら眠いと思った身体は段々睡魔に勝てずにベッドへと向かった。
「ん、」
ベッドに横になって手を伸ばせば苦笑いをしながらその手を絡めてベッドに乗り込んできてくれる。
「…寝るまで撫でて…」
「…おー…」
大きい手がゆるゆる頭を撫でて凄く気持ちがいい。
「起きたらちゃんと言うから」
ちゅ、とおでこに当たる唇のぬくもりで夢の世界だ。
(「言うって何を?」)
(「ニートだからそんなさらっと結婚しようなんて言えねーよ!」)