美しい毒の花園(瑠璃川幸/A3!)
※特に必要のない設定だったけど茅ヶ崎の妹設定

クラスの男の子で瑠璃川幸くん、という男の子がいる。
色白で目が大きくてしゅっとした顎を含めた顔の小ささも女の子みたいな男の子。瑠璃川くんの周りにはそんなに友だちがいない。一匹狼っていうほど孤立はしていないし、学校行事もなるべく協力してくれる子だし、いきがってるガキみたいな男子がからかったりもしているけど、そういうのもあしらえる見た目とは違って大人っぽい男の子。瑠璃川くんはケラケラと声を上げて笑うようなことはしないし、先生のギャグとかクラスの男子が馬鹿な事をしても笑ったりしない、常につまらなそうに授業ではあくびを噛みこらえてノートをせっせと書いていた。

私の憧れの瑠璃川くんには噂があって、隣のクラスの茅ヶ崎なまえさんと凄く仲が良いって、付き合っているんじゃないかって。

なまえさんは腰まで伸びた細くて柔らかそうな亜麻色の髪をいつも綺麗に緩く巻いていて、くるりと上を向いたまつ毛、ピンク色の唇、肌荒れなんかなさそうな真っ白できめ細かい肌はきっと校則に合わせたメイクをしていて、独特のピンク色の瞳はぱっちりとしていてこの世の可愛いを詰め込んだようなお姫様みたいな、お人形みたいな女の子だ。性格も優しくて先生の信頼も厚くて、頭も良くて、運動は苦手みたいだけど完璧な女の子。男子の平均身長より小さな瑠璃川くんより少し背丈も小さくて、きっと横に並んであるいたらとても絵になるんだろうな。でも私は瑠璃川くんがなまえさんと一緒にいるところを一度も見たことがない。噂になるくらいなんだから、そういうことがあってもいいと思うのに。

「瑠璃川ー」
いつもみたいに精神年齢が低い男子が瑠璃川くんにニヤニヤと笑いながら近づいた。
「お前昨日隣のクラスの茅ヶ崎と天鵞絨駅前のコンビニにいたんだって?」
ドキッと心臓が高鳴ってこっそりとそちらを見る。瑠璃川くんは次の授業の準備をしていたみたいで、表情は変わらず興味のなさそうに男子の顔を一回だけ見て視線を戻し授業の準備を再開させた。
「無視してんじゃねーよ!」
なまえさん。モテるからなぁ。あの男子はきっとなまえさんのことが好きなんだろう。
「…だったらなに」
静かにそれでもハッキリと聞こえた瑠璃川くんの声は冷たくて、怒りをあらわにしてた男子はびくっと身体を震わせた。
「カンケーないでしょ」
「か…っ、お前!どんな関係なんだよ!」
「…」
クラスのみんなが興味なさそうにしてるけど、ほとんどがきっと耳を大きくさせて聞いているんだろう。瑠璃川くんがはぁ、とため息をついて「めんどくさ」と小さく言った。
「はあ?今なんつった?」
「めんどくさいって言ってんの」
じゃあ、俺お手洗い行くから付いてこないでよ。と席を立ち、教室から消える瑠璃川くんの背中を首をかしげながらみんなが見つめていた。シーンと一瞬だけ静かになった教室はすぐにざわざわと賑わい、チャイムが鳴るころにはほとんどの子がその話を忘れていた。




部活が終わり帰ろうとしたところで、情報の授業で使った教科書をPC室に忘れていたのに気づいた。明日はミニテストがあるし持って帰らないと、と焦る気持ちで薄暗い校舎の階段を上る。外ではまだ賑やかな声が聞こえるのに校舎の中は別世界みたいに静かだった。PC室について職員室から借りた鍵を使い、中に入る。教科書は無事自分が座っていた机に置いてあった。
ほっとして、廊下にでると先ほどまで聞こえなかったピアノの音がどこからか聞こえた。どこからか、なんて言ったがPC室の反対の棟に音楽室はある。軽やかで可愛らしいリズムカルなピアノの音を頼りに渡り廊下を静かに歩いていく。音楽室の前のドアを通り過ぎて、後ろのドアを少し開けて覗いてみる。

「ぁ」

小さく漏れた声はピアノの音に溶けて、中にいた2人には聞こえなかったみたいだ。ピアノを弾いていたのは隣のクラスのなまえさんで、目を瞑って楽しそうにピアノを弾いている。その近くの椅子に座りながらなまえさんの様子を優しい目で見ていたのはクラスメイトの瑠璃川くんで、2人の間には誰にも入り込めないような孤立した空気を感じた。

「まだ終わんないの」
退屈そうに瑠璃川くんが口を開けば、ふふ、と笑ったなまえさんが視線を瑠璃川くんに向けた。
「ほら、だから先に寮に行ってた方がよかったのに」
「自分たちが使うかもしれない曲なんだから聞いときたいし」
「ちゃんと完成したらいつも通り一番に聞かせるのに」
瑠璃川くんの声色はいつも通りなのに少し優しげで、なまえさんはいつもとは違って静かな感じだった。活発的でいつも優しくニコニコと笑うなまえさんは、瑠璃川くんの前だととっても静かな年上の女の人に見えた。
「幸ちゃん」
「なに」
「今日もカレーかな」
「げ、今日も食べてくの」
「うん」
2人はどういう関係なんだろう。
てーてーてーてっててー
よく聞くRPGのレベルアップの音が聞こえて思わず口を押える。ピアノの上に置かれたスマホが鳴ったようで、みょうじさんが素早く手を伸ばして画面を見た。
「お兄ちゃん、早めに帰るって」
「あっそ」
へらりと笑ったなまえさんは心底嬉しそうで、瑠璃川くんはそんななまえさんの発言に興味のなさそうにそっけなく答えた。困ったような顔をして、座る瑠璃川くんにゆっくりと近づくなまえさん。なまえさんが少しだけ腰を折って、椅子に座る瑠璃川くんの唇にキスをした。えっ。思わず出そうになった声を慌てて手のひらで抑える。ちゅっと音がしてなまえさんが少し離れてニコニコと笑う。
「びっくりした?機嫌治った?」
「…いつも通りでしょ、そもそも不機嫌じゃないし」
「もー幸ちゃんいつも驚いてくれないね」
膨れた頬を見て少し微笑んで。立ち上がってなまえさんをピアノと挟み瑠璃川くんが楽しそうにしている。(あんな瑠璃川くん見たことないな…)もしかしていつもの瑠璃川くんが幻想で、こっちが本物?それとも今見ているのは瑠璃川くんではなかったり?いつもつまらなそうにしているのに、まるで宝物みたいになまえさんのことは見つめていて、2人は付き合っているのかなとか、そういうの無粋な気がした。追い込まれたなまえさんが頬を染めて伏し目がちに瑠璃川くんを見つめる。瑠璃川くんが瞼に口づけをして、なまえさんがゆっくりと瞼を閉じた。ドクドクと高鳴り早くなる心臓をぎゅうっと抑えてじっと見つめた。
「っ」
ちらり、とこっちを見た瑠璃川くんと目があって息が止まる。不機嫌そうに私を睨み、これ以上見るなとでもいうような形相だった。静かにその場を離れた私は、瑠璃川くんの認識を変えないといけないなぁ。と2人の様子を見てため息をついた。