この荘園に来てから幾日か、たくさんのサバイバーたちと会話をし、何度かゲームにも参加した。
ゲームの擬似的な死は何度体験しても、とてもじゃないが慣れやしない。まるで一日中運動をし続け、疲れ果てたような身体の疲労と、生理前のようなどんよりとした心。全体的な倦怠感に私は夜な夜な目が覚めては食堂へと向かい、自身で調合した薬を服薬するようになった。

元々夜は眠りが浅く、安眠などできやしなかったがこれではもっと睡眠なんてとれやしない。洗い場の冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、持ってきた薬を飲み込めば先ほどまで止まらなかった動悸が深呼吸をしていくたびに落ち着いていく。

この荘園で出会った医師、エミリーには度々大量の薬を服用する姿を見られ「過度な薬の摂取は体に良くないわよ」と言われているが、薬物に関しては医師である彼女より調剤師である私の方が長けている。

そもそも彼女の前提は間違っている。
体に良くないとか、良いとかそんな以前の話だ。
私の身体は既に薬でボロボロで、言うならば既に身体は良くない状態ということ。瓶に残ったミネラルウォーターをそのまま手に持ち、自室へと戻ろうとしたところ、食堂の扉で人とばったり会ってしまった。薄暗い廊下に自分の背丈よりも大きな体が暗闇から音もなく現れたのにびっくりしないわけがない。

「!びっくりした……どうしたのこんな遅くに」
「ナマエこそ」
「私は…少し寝つきが悪くて」
「ああ、今日はゲームだったから?」
「ええ、私は1番最初に飛ばされてしまったけどね」

会話の半分は本当で半分は嘘だ。
疲れているのはゲームのせいだけれど、寝つきが悪いのはゲームがあったからはあまり関係がない。扉の前から動かない男を疑問に思いながら見上げ、相手を不愉快にさせない程度に笑みを浮かべる。

人と人の距離感というのは大事で、集団生活をしているこの荘園では他者との関係を悪くするの得策ではない。人々の中に溶け込めないのは愚の骨頂だ。
まぁ、この荘園には周りに馴染めない欠落した人間も多いが、私はそんなバカな真似はしない。

私の笑みを見てから彼はケロイドに囲まれた目を細めて「お大事に」とだけ言って横を通り過ぎた。

近過ぎず、遠過ぎず、一定の距離を保つのは意外と難しい。私の横を通り過ぎた男に「ありがとう、おやすみなさい」と伝えれば返事はなく彼は暗闇の食堂へと消えていった。


そういえば彼、ノートン・キャンベルとはよく顔を合わせる気がする。
昨日の夜もこうやって薬を飲むために夜にここに来た帰り、廊下で会っておやすみと言った気がするし、その前も冷蔵庫の前で会った。

少しだけ不審に思いながらも、彼も寝付きが悪いタイプなのかもしれないし、何よりノートン・キャンベルという男が何を考えているかなんて私には皆目検討もつかない。

「(不思議というか読めない男だから、少し苦手なのよね)」

この荘園の中で私は、彼がちょっぴり苦手だ。

01.彼は不思議で薄気味悪い!