今日の気分は最高〜!
なんでハッピーかって聞かれれば、朝お気に入りのカフェでお気に入りの端っこのカウンター席が空いていたとか、仕事が難なく進んだとか、お気に入りのスーツは汚れなかったとか、信号に一度も引っかからなかったとか、ああそうだ買おうと思ってたパンプスが少し安くなってたとか。まぁそんな小さなことではある。

小さな幸せに喜びを感じることをしょうもないと言う人もいるが、正直この暗殺家業を生業としていたらいつ無残に殺されてもおかしくないので、幸せのリターンは小さいものの方がいい。『大きい幸せ』は『大きな不幸』に繋がるのが生きてきた中で学んだもの。そんな風に思いながら鼻歌交じりにアジトへ入れば、ガヤガヤと広間の方で討論が行われている声が聞こえた。立て付けの悪いドアは完全に閉まられることはなく、足で軽く蹴飛ばして開けば珍しくもソルベとジェラート以外の全員が集合していて笑ってしまう。

「どうしたの、こんなに集まって」
何みんな暇なの、ウケる。なんて笑えばギロッとした視線が向けられ、そんなプロシュートを見れば手の先には何かを掴んでいるのが見える。
「まーたホルマジオが猫でも連れてきたの?」
近づいて覗き見すれば猫よりもは大きい、それでも普段見ている人間というには少し違和感のある小さな生き物がそこにはいた。
「はぁ…?」

どういうことよコレは。
プロシュートの手によって首根っこを掴まれているのは、腰の位置くらいまでの背丈の子どもで、不安そうに私を見つめていた。
「な…なんかメローネに似てるような…?」
「メローネだとよ」
「え、ホルマジオあんたマジでそれ言ってる?」
「マジだっつの大マジ、イルーゾォから連絡があって現場に向かったらこいつらがいた」
「こいつらって…」
指をさした先にいたのは3人がけのソファーで眠るギアッチョに似た子どもと、イルーゾォに似た子ども、そしてペッシに似たような子どもだった。

「…今日って確か下見かなんかでその4人が行ったんじゃなかったの」
見張りにイルーゾォとメローネ、戦闘要員にギアッチョ、探知にペッシって感じで朝送り出したよね?プロシュートが行くって言ってんの私止めた記憶あるし。ソファーに座り様子を眺めていたリゾットに聞けば困ったような顔をして「そうだったんだが…」と言った。

渡された紙を見ると、それは報告書になっていて要はスタンド能力でこうなったとのことだ。う、わ…そんな面倒なスタンドもあるのね。ちょっとだけ引きながら、隅々まで報告書を見ていると私の服を引っ張る感触が。
「お姉さん」
「ん…?」
「お姉さんは怖い人ですか?」
「え、え?どういうこと?」
私のスーツの裾を掴んで見上げている子はメローネで、さっきまで首ねっこを掴んでいたプロシュートを見つめて説明を求めれば『はぁ』と大きなため息をついて頭を抱えた。

「こいつら、中身まで幼児退化しやがったんだ」
「うそだぁ…」
「マジだ」
「え、じゃあなんでこの報告書は作れたのよ」
幼児退化した子どもにこんなに細かく書けなくない?報告書でプロシュートを叩けば見かねたホルマジオが私の持っていた報告書を奪い取って、テーブルへと投げた。
「イルーゾォは現場についた時にはまだ直近の記憶があったんだ、けど今さっき寝ちまったし起きたらもうねェだろうな。寝る前に言ってた感じだと、敵のスタンドに引っかかって3人が子どもになるのを見て鏡に引っ込んだから一時的に中身の退化は遅れたらしい。まぁ、メローネたちが退化後にすぐ目が覚めて声をかけたらビビられたっつってたけどな。ちなみにその報告書は俺が聞いた後に作った」
「…な、にそれ…めっちゃ怖…」
頬が引きつって息を飲む。心配そうに見上げる小さなメローネを見て、きゅんと胸の奥が締め付けられた。か、かわいい。なにこの気持ち…。
「…てことは今のメローネたちは全く記憶がないってこと?」
「そういうこったな」
「…」
ホルマジオの言葉に頭を抱えてから、しゃがみこみメローネと目線を合わせる。
「ふふ、はじめまして、私はねナマエっていうの、怖いお姉さんではないわ。おいで、怖かったよね」
「…!」
なるべくぎこちなくならないように微笑んで手を開けば、おずおずと子メローネが近づいてきたのでよいっしょと抱き上げた。その様子を見てプロシュートが横でぎゃんぎゃんと「甘やかしてんじゃねェペド女」と言ってきたので足でスネを蹴ってメローネに笑いかける。
「怖かったね」
「…うん」
「メローネはいい子ね、泣いたりしない強い子」
抱き上げた体重は決して軽くはないけど、小さな重みに気をつけてリゾットに向き合った。
「で?リゾット、この子らどうすんの?」
「…この子ら…まぁいい、今そのスタンド使いはソルベとジェラートが後を追ってるから、それまでは面倒見るしかないな」
「乳幼児じゃないとはいえ私もここにいる奴等、誰も子持ちじゃあないのに大丈夫なの?」
「やるしかないしな」

じっと向けられるリゾットの視線にため息をつけばメローネが不安げに私を見上げて俯いた。
「あ、の…俺は1人でも大丈夫だから…面倒かけるのは…」
「…大丈夫、あなたは何も考えなくて大丈夫」
あのメローネからそんな言葉が出てくるなんて、と少し思ったがいやアイツ大人の状態でも「俺に構わなくていい」みたいな感じだったなそういえば。小さいだけでこんなに遠慮する言葉が可愛さに感じるのか。不安げな背中をぽんぽんと優しく撫でる。瞼を下ろして肩のあたりをぎゅっと掴むメローネに微笑んで身体を揺らせば小さな寝息が聞こえはじめた。

「…寝ちゃった」
「メローネだけは結局ずっと起きてたからなイルーゾォ曰くすぐに目が覚めて呆然としてたらしいしよ」
「記憶は?」
「その時から無いぜ」
「ふーん」
ホルマジオが眠るメローネの顔を覗き込んで口元を緩める。
「とりあえず今後のことを考えようか、チビたちは仮眠室で寝させておいてさ」
「そうだな、プロシュートはペッシ、ホルマジオはイルーゾォを頼んだ。ギアッチョは俺が運ぼう」
渋々とソファーで眠る小さい身体を抱き上げて仮眠室へ連れて行きベッドへ下ろす。すやすやと眠る顔を見て安堵しながらも今後のことに頭を悩ませた。これからどうすんだ…。