揺さぶられる感覚で目が覚めて、痛みを感じる下半身に不愉快さを覚えながら瞼を上げた。目の前に広がるピンクと水色と黄緑と焦げ茶の髪と8つのまん丸とした目に一気に心臓が冷えて、勢いよく起き上がる。
「えっ!?」

昨夜リゾットと行為をしたまま寝たのも覚えている。けど大体は明け方に性行為後特有のダルさで目がさめるのだが、今回はそんなことも忘れるくらい精神的に疲労していたらしい。4人の不思議そうな顔にハッとして自身の身体を見れば、寝巻きどころか下着すら付けていないではないか。いや、この際それはどうでもよい。パッと見た時計の短い針は8時を差していて、早ければそろそろプロシュートがアジトへやってくる。私が起きたことによりベッドの上は揺れたわけだし、100%起きているはずのリゾットは横で丸くなり我関せずを貫くいていた。

「なんでリゾットとねてるんだ!?」
「おれとねるやくそくだったのに…」
「おふろのあとはちゃんとふくきろってプロシュートにおこられるぜ」
「あさごはん…」
ギアッチョ、メローネ、イルーゾォ、ペッシと立て続けに出てくる言葉にだらだらと背筋に汗が伝う。ちなみに同時に外で車のドアが閉じる音も聞こえた。
「み、みんなプロシュートが来たみたいだから玄関に迎えに行ってあげて!」
「えー?なんでだよ!」
「どうしてリゾットとはだかでねてるんだ?」
「ええい!ギアッチョ、メローネ2人とも良い子だから後でその話はしようね!ちょっとリゾット、寝たフリしてないで起きてよ!」
「…バレてたか」

なんで朝からこんなにドタバタしないといけないんだろう。もちろん下着も寝巻きもこの部屋にはない、ベッドから床に落ちていたバスタオルを引っ張って身体に巻き付けベッドを降りれば玄関の扉がガチャと開く音がして、慌てて自室に当てられた部屋に入り下着と洋服を身に付けた。

ドアから顔を覗かせ「…おはよ」とやってきたプロシュートに伝えれば「なんだお前、寝起きか?だらしねェな。髪の毛ボサボサだぜ」と言われ言い返したいところをぐっと我慢した。ギアッチョとメローネがプロシュートと並んで歩きながら「朝ごはんまだなんだ」と言うのでギロッと睨まれた。

「早く準備しろよ」
「言われなくてもするわよ!」
顔すら洗ってないんですけど!と言えずじまいで洗面所へと向かえばリビングから「リゾットも寝坊か、なんなんだお前ら」とプロシュートの声が聞こえてべつに悪いことをしていたわけでもないのに肝が冷える。


ダッシュで顔を洗って軽く化粧をして、ささっと朝食のパンとスクランブルエッグを焼いたころにはぞろぞろとソルベとジェラート、ホルマジオの順でアジトにやってきて当たり前のように朝食に参加し始めた。何みんな普通に朝食食ってんのよ、これ給料でるよね?全員分のご飯を作り終えてクタクタになりながら、自分も席に座れば隣に座るメローネがスクランブルエッグを口に頬張り頬につけていたので取ってあげた。

「そういや今日はナマエと一緒に寝るんだろメローネ」
よかったな、とホルマジオの言葉にメローネが黙々と食べていた顔を上げて「うん」と笑う。プロシュートが食事を終えて窓際でタバコを吸っているのを見ながら本当にここは天下の暗殺チームのアジトなのだろうかという空気感に微笑みを浮かべたところで、チビたちが爆弾を落とした。

「でもおれより先にリゾットがきのうナマエとねてたんだ」
「メローネのほうがさきにやくそくにしたのによぉ!」
「しかもふくもきないでねてたんだぜ!ふろはいったあとはふくきないとだめだよな!」
「それあとではなすってナマエいってただろぉおこられるよ…」

その瞬間凍りつくリビングにジェラートとソルベの笑い声が響く。
「やっばい、それ最高に面白いな!!まじで服着てないで寝てたのかよイルーゾォ!」
「マジだぜ」
「ジェラート、ははっ、笑いすぎだ、っく…」
「ソルベも笑ってんだろ!」
ゲラゲラ笑う2人と頬をひきつらせるホルマジオ、吸っていたタバコを落とすプロシュートと、スッと立ち上がって部屋へ逃げようとするリゾット。チビたちの視線が私に向けられ「さっきあとでそのはなししてくれるって言っただろ!」とギアッチョに言われ完全に私の口元も引きつった。

「アッハッハ!マジで!?ていうかこの反応見る限りホルマジオとプロシュートも最近ヤったのかよ!」
「いってェ、叩くなジェラート」
「前から知ってたけどこの状況でナマエに欲情すんなって!」
あーウケる。とゲラゲラ笑ったジェラートとは裏腹に3人の男たちは気まずそうにお互い視線を逸らした。
「…おれ、なんかへんなこと言った?」
眉尻を下げてフォークを咥えるメローネに「そ、んなことないよ」とぎこちなく笑えばしょんぼりとした表情が直らない。メローネとギアッチョに構いすぎたのか頬を膨らましてストローのついたオレンジジュースをぶくぶくと音を立てて吹くイルーゾォにホルマジオが「下品だからやめろ」と言った。
「いや、お前が言う?」
「黙れねェのかお前」
未だにツボにハマったのか笑うジェラートに呆れ返りホルマジオが頭を抱えているのを見ながら私は逃げるように空いた食器をまとめてキッチンに逃げ込んだ。知ーらない。



「俺らが頑張って犯人探してる時にナマエのママンっぷりに欲情してたマンモーニたちに悲報だ」
「ママンっぷりとか言わないでよね」
チビたちがリビングでテレビを見ている中、ジェラートが数枚の紙をホチキスでまとめた資料をテーブルへと置いた。マンモーニと呼ばれたことにギロッと2人を睨み「誰がマンモーニだ」と言ったプロシュートを無視してジェラートが肩を震わせてまた笑い出す。
「プロシュートが一番面白いよなソルベ」
「一番こういう時にそういうの嫌がるくせにな」
「…つーか俺も犯人探しに出てただろォがよォ」
「…ホルマジオも黙れ、もういいから2人とも続けろ」
「はいはい、リーダーがそういうなら…。まぁ犯人だけどネアポリスのある教会に浮浪者ぶって身を潜めてるみたいだ」
リゾットの言葉に渋々とまとめられた紙を1枚捲ってみんなに見えるように向きを変えた。そこにはタイムスケジュールのようなものがびっしりと書かれていて各自覗き込むようにしてそれを見つめる。

「居場所と行動パターンはわかったから、あとは捕獲するのか殺すのか…リゾット、リーダーのお前の判断に任せるぜ」
真剣な顔付きでリゾットを見つめ返答を待つソルベ。その視線に特に狼狽えることもなくリゾットは口を開いた。
「この持続力と範囲だ、殺したからといって解除できるかわからない。とりあえずは捕獲拘束だ」
その判断が妥当だろう。スタンド使いが死んでも作用する能力というのも聞いたことがある。下手に先に殺して4人が子供のままなのも困る。
「はいはい」
「了解だ、じゃあ引き続き俺とジェラートで犯人は捕獲してくる」
「頼んだ」
リゾットの静かな目力に口元を緩ませて気を引き締めたソルベとジェラートがソファから立ち上がりひっ付き合いながら玄関へと向かっていく。

「…まぁ精々4人ともナマエの最後のママンっぷりを目に焼き付けとけよ」
最後にニヤニヤと口元を緩ませて、煽るように言葉を残して行ったので残された大人組が各々複雑そうに表情を浮かべたのは言うまでもない。なんで私が一番とばっちり受けてんのよ。



「ナマエ!」
大人たちの微妙な空気を察したのか察してないのかわからないけど、イルーゾォが駆け寄ってきてソファへ座る私の膝へと抱き着いてきた。
「どうしたの?」
「あのな、おれたちいつもナマエにメシつくってもらってるだろ」
イルーゾォに続くようにメローネとペッシも駆け寄ってきては引っ付いてきた。
「ママンじゃあないのにおれたちのことだいすきだろ」
「いつもやさしいナマエになにかしてあげられない?」
「3人とも…」
昨日の今日で虫のいい話だとは分かっているけど、存外私は母親に向いていたようだ。子どもも悪くないかもしれない、なんてちょっと思った。ちなみに歳のせいなのか涙腺が弱くて鼻の奥がすこしだけつんっとする。引っ付くみんなの後ろのほうでギアッチョがじっとこちらを見つめていたので手招きすれば、頬を赤くしながら近寄ってきたので一気に4人を抱きしめた。

「みんなが元気でいてくれればそれでいいんだよ」
そう、4人が無事に大人に戻れればそれでいい。結構大変だったけど、大人のときよりも可愛いくてちょっと手のかかる4人がニコニコと笑うのを見て、もうしばらく戻らなくてもいいのになぁとちょっと思ったのはみんなには秘密だ。ちなみにそんな光景を見ながら『しょうがない』といった顔でリゾットとプロシュートとホルマジオが笑っていたのを私は知らない。