リクエスト:同い年彼氏彼女で、普段は強くて頼りになるけど2人の時はデレデレな仗助
※第三者視点


私の同じクラスには、そりゃもう地元では知らない人はいないだろう、有名なカップルがいる。

彼氏の方は高校生とは思えないほどガタイが良くて、ちょっと特徴的な髪型をしているけど、タレ目が可愛くて、でも喧嘩が超強いらしくて、なのにとっても優しく愛嬌もある男の子。きっと歳上からも好かれそうな東方仗助くん。

彼女の方はこれといった特徴はないけど、手入れの行き届いた髪の毛と、きっと年中無休で何回も日焼け止め塗り直しているんだろう真っ白な肌、あとこれも憶測だけど毎日手入れをしながらしっかりビューラーで上げているんだろうクルンと上に持ち上がったまつ毛をしていて、みんなに優しいナマエちゃん。

2人は誰もが認めるほど素敵なカップルで、私なんかが話したこともないくらいスクールカースト上位にいる人間だ。え、私?私のことなんてどうでもいいから気にしないで。

この2人ときたらいつも一緒にいるのに喧嘩なんてしているのは見たことがない。いつもナマエちゃんは東方くんの横で彼に守られるように歩いている。こないだなんて体育で転んだナマエちゃんを恥ずかしげもなく横抱きにして保健室に連れて行った東方くんは一瞬でその話が広がって学年のヒーローだったし、バカな先輩がナマエちゃんにちょっかいを出してビックリして泣いてしまったのを見た東方くんがその先輩をボコボコにしたっていうのも噂で聞いた。

いつも東方くんはナマエちゃんを愛おしそうに眺めては、幸せそうに目を細める。そんな東方くんをとっても信頼しているナマエちゃんも、東方くんを体育の授業や、何かがあるたびにぼーっと見つめては頬を赤く染める。どう見ても羨ましい理想的なカップルだ。

勿論そんな彼や彼女に憧れを持つ人は後を絶たないし、2人はお互いにとってもモテる。毎日毎日、いろんな人が振られては相手がアレだと勝てないとみんな諦めていくのだ。私としては勝ち目のない戦いを挑む子たちの神経の方がよくわからない。

今日だって東方くんの大きな手に繋がれたナマエちゃんの小さな手がキュッと握り返しては、照れ臭そうに2人が微笑み合う。見てるだけで甘酸っぱくてこっちが幸せになれるのに、なんで誰も2人の間に付け入る隙がないと理解しないのだろうと今日も私は思う。

うーん、だなんて唸りながら考え込んでいたら6時限目の体育の授業中に足を捻ってしまい保健室に向かった。私には彼氏なんぞいうものはいない代わりに、仲の良い友人が『付き添おうか?』と聞いてくれたが遠慮して断った。1人とぼとぼと保健室に向かえば先生はいなくて寂しい思いのまま湿布が入ってるであろう救急箱を漁りお目当ての湿布を手に入れた。

足首に貼りたいが立ったままだとバランスが悪い。はぁ、とため息をつきながら保健室の2つあるベッドの内、なんとなく奥側のベッドに座って湿布のフィルムを剥がして足首に貼った。ひんやりとした冷たさが痛みに響いて少しだけ寂しさが倍増した。私も東方くんまでとは言わないから彼氏ほしいなぁ、なんて。

そんなことを考えていたらガラッと扉が開く音がして顔をあげる、隣にあったベッドのカーテンが締められていたせいで誰が入って来たかはわからないけど恐らく養護教諭だろう。

『先生、湿布勝手に出しちゃった』そう言いかけた言葉を飲み込んで聞こえた声に息を飲んだ。

「仗助、大丈夫だってば…ごめんね先週に引き続いて…」
「俺は構わねーけどよ、本当に大丈夫か…?転びグセが付いてるとかよ」
「そんなワケないって」
クスクスと可愛らしい声が響いて、心配そうな低い声も聞こえる。この声は東方くんとナマエちゃんだ。思わず息を飲んで気配を消した私に2人は気づかないのか会話を続ける。キィっという錆びた丸椅子が響いて仗助くんの低い声が「それ固ェし、ベット座れって」と指示をした。

「(…ベッド)」
私のいるベッドの隣だ、ドアから近い方のベッド。この2人に私の存在がバレたらどうなるのだろうか、ばくばくと音を立てる心臓を握りしめるようにジャージを掴んで、聞き耳を立てた。
「ナマエ、足見せろ」
「ん……、クレイジーダイヤモンドは本当に優しいねぇ」
「…優しいのはスタンドだけかよ」
「ふふ、仗助もだよ」
…?よくわからない単語がいっぱい出てきたけど、聞いた感じだと仗助くんが拗ねたような口調でナマエちゃんに声をかけていて、初めて知った雰囲気に瞬きをしてしまう。ギシッと保健室の古びたベッドが音を立てて、カーテンに移る人影が横になって重なった。

「…ここ保健室だよ?」
「知ってる」
ちゅっとリップ音が聴こえてなぜか私の顔が熱くなる。まさか、いやいやあの有名カップルがこんな1、2mしか離れてない距離でいちゃいちゃしてる。しかも普段の甘酸っぱいかんじとは程遠い、甘くて大人っぽい雰囲気が伝わってくる。
「仗助ってば甘えん坊さんだなぁ」
「仕方ねーだろ…学校だとこうやってくっつくのは駄目って言ったのナマエだしよ」
「ここも学校!」
「…誰も見てないからいいだろ」
「…しょうがないなぁ、ちょっとだけだからね」
ちゅっちゅっと何度もリップ音が聴こえて安っぽいパイプベッドがその度に2人分の体重でギシと音を立てる。東方くんが覆いかぶさっているのか「重いよーきゃー」なんて冗談めかしなナマエちゃんの小さな声に答えるように何度も何度も顔中へキスしているのがカーテン越しの影で見える。

「(う、わ…)」
意外。東方くんって彼女と2人の時はあんな感じなんだ。いつも大人びていて強くてカッコいい東方くんはそこにはいなくて、今隣のベッドにいるのは彼女のナマエちゃんから許可を貰って戯れて甘やかされている16歳の男の子だ。たしかにタレ目な顔目元を可愛いとは思ってたし、みんなとも話していたけどこんな感じだとは思わなかった。これは後でみんなに言いたくなってしまうネタだ。

「ぁ…っん」
驚愕しているのも束の間にごそごそと動く音がして、吐息と喘ぎ混じりのナマエちゃんの声が聞こえた。ふふ、と笑っていた心が冷えるようにピタッと止まって。甘い雰囲気に息を殺す。ぺち、と肌を小さく叩く音が聞こえてからため息が聞こえた。

「ここ保健室だってば!」
「…いっ、ワリィ調子乗った…」
「もう!ほら教室戻るよ!」
この5分くらいで聞き慣れたベッドの軋む音が聞こえて、保健室のドアが開く音がした。たぶんナマエちゃんが怒って出て行こうとしているのだろう、足音が遠ざかっていくのが聞こえて、ほっと息を吐いてから私も教室に戻ろうとベッドから降りてゆっくりドアを開けた。

「っ」
人影が扉の横にいて、思わず見上げる。そこにいたのはさっき彼女に甘えていた東方くんで、罰の悪そうな…複雑そうな顔をして頬を指先で掻いていた。
「…さっきから聞いてただろ、お前」
「ひ、がし方くん…」
もしかして怒っているのだろうか。自分のイメージじゃないとかで、記憶が無くなるくらい殴られたりする?怯えながら見上げた綺麗な顔の表情は変わらず、困ったように眉を八の字に垂らして苦笑いをしていた。

「別に俺は気にしねーんだけどよ、その、ナマエってそういうの気にするから見なかったことにしてくれねェ?」
「あ…はい…」
「サンキュ、助かる」
口元を緩めてから私に背を向けてナマエちゃんの後を追いかけるように走り去って行った東方くんを見ながら、あの笑顔はたしかにモテるわ…、と再確認した。彼女が気にするからって、わざわざ私みたいな奴にまできちんとフォローするなんて羨ましい限りだ。まぁ私はそれでもあんな優しい彼の隣には同じく優しそうなナマエちゃんが一番合ってると思うけど。