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 高校三年生の夏、自らの進路を決める大事な時期である。就職、大学又は専門学校への進学など人それぞれだろう。
 ここ黒森峰女学園は戦車道が盛んであり、その優秀な実績が認められ大学側からの生徒の募集が多数来ている。戦車道を基準にして大学進学を決める生徒は多い。既に国際強化選手にも選ばれている黒森峰戦車道チーム隊長の西住まほもその一人である。

黒森峰女学園という自他共に認める戦車道の強豪に来るということは戦車道に三年間を捧げるということと同義であり、また戦車道での活躍を求められる。強豪黒森峰の戦車道チームで一定の活躍を修めた者は相対的に学園内での評価が上がる。
ならば、隊長車のTiger Iの操縦手ともなれば大学側も喉から手が出る程……では無いにしても欲しがる大学もいるのでは無いか?
逸見エリカは考える。何故『私の幼馴染みは数ある大学からの勧誘を蹴ったのだろうか?』と。



 大洗女子学園対大学選抜の試合も終わり、本格的に進路を固め自分の将来に向け活動し始める三年生がここ黒森峰女学園にも大分増え始めている。
 逸見エリカは二年生故まだ本格的に悩む時期ではない、彼女が今悩んでいるのは自分の進路ではなく同じく黒森峰に在籍する幼馴染みのことであり『数ある大学からの勧誘を全て蹴り進路希望調査表を白紙で出した』という噂さえ聞かなければ心配などしないのである。
 幼馴染みとはいえ学年が違う上に仮にも名字名前は高校三年生、忙しい時期に会いに行って迷惑をかけたくないという思いに悩まされる。名字名前は少々抜けた所はあるが、思慮深い性格であり自分のことでは決して家族や友人に迷惑をかけたりしない。それ故に悩みや思っていることを抱え込む癖があり、逸見エリカはそれにいつもやきもきさせられているのだ。今回の件も彼女なりに考えた結果なのであろうと思ってはいるが心配なのに変わりはない。
 逸見エリカが名字名前に直接聞きにいけない理由は迷惑をかけたくないという理由以外にももう一つある。それは逸見エリカ自身の性格に起因する。彼女の性格は名字名前曰く『素直じゃない』。
 彼女の性格は世間一般で言う『ツンデレ』というやつでありその対象は名字名前である。つんけんとした態度をとってしまう癖を直したいと思っているものの、実行出来ないでいるのだ。心配などしていない、そのような嘘をつき敬愛する西住まほの前では気丈に振る舞っている。




「という訳なのよ、赤星さん」
「いやどういう訳でしょうかエリカさん……」
「相談出来るのが貴女くらいしかいないから貴女に相談してるのに……! 名前は私に何も言わないし、気になるけどかといって私から行くのは癪だし……」
「なんで躊躇うんですか? 名前先輩は幼馴染みなんでしょう?」
「だって…幼馴染みなのに進路について一言も言ってこないし、最近会いに来ないし、寧ろ若干避けられてる感じあるし!?なんなのよ名前ったら!」
「あはは…それは残念ですね…あっ! なら、隊長に聞けばいいんじゃないですか?」
「嫌よ! 隊長に変なところ見せたくないし…」
「隊長と名前先輩どっちが大事なんですか…」
「隊長に決まってるじゃない!」



「そうか…もう、迷いは無いんだな?」
「うん。エリカちゃんにも、もう少ししたら話すよ」
「エリカに早く言ってやれ、心配していた」
「…エリカちゃん、なんて言うかな」
「まあ、怒るだろうな」
「あはは、それなら嬉しいかな」



 逸見エリカの中でのカースト不動の一位は西住まほだ。続いて黒森峰戦車道チームの面々、名字名前、その他諸々と続く。西住まほは逸見エリカの絶対であり何者にも代えられないのである。それは幼馴染みという立場の者ですら無理なのだ。
 寧ろ名字名前はカースト下位の方である。だが決して、逸見エリカにとって彼女が『どうでもいい存在である』という訳ではない。
 逸見エリカは自分でも気づかぬ内に自らを卑下する癖がある。西住まほは敬愛する隊長ではあるが、戦車道においては西住流という絶対であり自らがそれを越えるなど烏滸がましいとも感じる。憧れではなく、崇拝。犯すことの出来ない聖域なのである。それは自分のような存在が隊長に並ぼうなんて…という思考から来るものなのだ。
 西住まほと違い、幼い頃から一緒に過ごし歳の差も気にしないような間柄の名字名前は一番の理解者であり、近しい存在と認識している。
 それ故に二人はこの関係を保っている。名字名前は逸見エリカが『西住まほと名字名前が命の危機、どちらを助ける?』という問いに迷い無く西住まほを選ぶと分かった上で一緒にいて、唯一で一番の理解者という立場に居続けているのだ。
 それは逸見エリカも似たようなものである。いつか来る別れの時を理解しつつも自らを理解してくれる者としてすがり、守るものとして自らの側においているのだ。矛盾は理解している、だが逸見エリカにとって名字名前が必要な存在というのは確定事項である。


「…あっ! もしもし、エリカちゃん?名前だよ」
『名前!? な、何よこんな時間に…』
「久しぶりに、二人でゆっくり話したいなって。今週の週末空いてる?」
『空いてる、けど……』
「なら、最近新しく出来たあのカフェで」
『分かったわ』
「ごめん! 詳しくは後でメールするから、またね!」
『えっ、ちょっと! 結局あいつ、なんなのよ……』



「卒業まで、あと数ヵ月か……エリカちゃんと離れたくないなあ……」


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