「名前ちゃん、好き」
「アンチラちゃん、近いよ」
「ダメなの?」
「普通は女の子同士でこんなことしないの」

いたちごっことはこの事かと思う。私は彼女を拒否する。彼女は私の要求を拒否する。アンチラちゃんの脳内に普通という言葉は存在していないみたいだ。存在していたとしても、それは私の考える普通とは大きく違うものだろう。

「ねえ」と声をかけられる。聞こえないふりをしたい。アンチラちゃんは友達なのだ、そう、友達。
友達なら、口付けなんてしない。アンチラちゃんはずれてる。もう辛くなってきた、何を言っても通じる気がしない。友達でいたいのに、彼女がそれを邪魔してくるんだ。

「ねえってば」
「なあに、アンチラちゃん」
「すき」
「さっきも聞いたよ」
「名前ちゃんはボクのこと、すきですか?」
「好きだよ」
「本当?」
「本当よ」
「ならいっか」

この問いも何回したか分からない。昨日もこの話をした。こんな行為、無駄なのに。
この問答にも飽きてきた。アンチラちゃんだって私が面倒くさがってるって気付いてるんじゃないのか。
彼女は相変わらず物好きだ。私には理解出来ない。
だから早く、飽きて。私じゃなくてもいいでしょうに。アニラさんにでもなついてればいいのに。

「名前ちゃんは、今何を見てるの?」
「アンチラちゃんが目の前にいるんだから、アンチラちゃんを見てるよ」
「キミの目は虚ろだ、どこをみてるのか分からない」
「視界にはアンチラちゃんしか見えないよ」
「うん、わざとそうしてる」
「そうなの」

額と鼻先がくっつくほどに顔が近づけられる。アンチラちゃんの髪の毛は絹糸のように綺麗だ。

「ボクの髪、きれいでしょ?」
「うん。サラサラで、ふわふわしてる」
「名前ちゃんはもう少し、髪に気を遣わないの?」
「アンチラちゃんがいつも整えてくれるから、いいかなって」

私も中々アンチラちゃんに依存してる。そもそもがアンチラちゃんと離れない時なんてほぼ無いからだ。私が動かなくても、アンチラちゃんが私の元に来るからだ。アンチラちゃんのことは嫌いじゃないから、このままがいいんだ。もうちょっと普通ならいいんだ。
ちょっと普通じゃなくても、周りが許せば平気だから、アンチラちゃんにはもう少し普通にしてほしい。自分でも何がしたいのか、何をしてほしいのかわからなくなってきた。

「私、アンチラちゃん離れするよ」
「どういうこと?」
「私とアンチラちゃんは近すぎるの、もう少し離れよう」
「近いと何がダメなの?」
「私とアンチラちゃんは友達だから、こんなに近くちゃダメなの」
「仲がいいって、いいことなんだよ」
「恋人ならいいけど、友達じゃあダメだよ」
「それなら、コイビトになろう」
「ううん、私達は友達だよ」
「そうなの?」
「そうだよ」

アンチラちゃんはたまに突拍子もないことを言い出すから困る。私とアンチラちゃんは同性だから、恋人にはならない。アンチラちゃんも分かってくれるはず。

「ねえ」
「なあに」
「テンジクって、理想郷なんだよね」
「一応そう言われてるね」
「温泉、あるかなあ」
「まあ理想郷って言うくらいだし、あるかもね」
「もふもふもあるかなあ」
「もふもふの定義があやふやだけどあるんじゃない、理想郷なんだから」
「そっか」

テンジクがどんなところかなんて言い伝えでしか知らない、それだって詳しくは書かれていない。テンジクには彼女をそこまで駆り立てる何かがあるのかと思う。

「テンジクなら、ボクと名前ちゃん、二人で幸せになれるかなあ」
「テンジクに行ってみないと、分からないよ」

ユートピアと呼ばれる理想郷なんて現実に存在しないから理想郷であり、元はと言えばこの世界に対する皮肉のような物なのだ。

「じゃないと、テンジクに行く意味ないよ」
「そんな理由なの」
「うん」

期待するだけ無駄なのに。

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