王子は最近言葉のキレが増してきてる気がする…これは絶対気のせいじゃない、付き合いが長い私にはそれが分かる。
 王子と姫様の雑用係をしてる私、働き始めて何年経ったかあまり覚えていないが十年近くになるのではないか。当時恋に恋する乙女だった私は『王子』という存在に夢を見ていた。おとぎ話の白馬の王子様、お近づきになれたらなあと思っていた。王子は格好いいし民に慕われている。正に王子様。
 でも王子は少し…いや、私限定でかなり私のやることなすことに毒舌を発揮する。私が少しドジで、ノイシュより紅茶淹れるのが下手くそで…ノイシュって騎士だよね?なんで私よりメイド力高いの?いや執事か?どちらにせよ二人が並ぶとその場が凄く高貴な空間になる。そこに姫様が加わればスーパー高貴な空間が完成だ。とりあえず私はノイシュより劣っている…なら毒を吐かれるのも必然ではないか?自分で言ってて悲しくなるぞこれ…紅茶だけはノイシュに勝てる気がしない。
 とまあ、高貴な見た目とは裏腹に結構毒舌な王子に夢をブチ壊された私だけど、何だかんだで惚れてしまい今に至る。だって、あの沢山の魔物が襲ってきた時の、儀式に臨む王子を見て格好いいと思わない人もいないだろうと思う。あんな簡単に死ぬなんて言われた時は流石に焦ったけど。とにかく、あの二人はアイルストの太陽だ。私たち人間は太陽がないと生きていけない。アイルストの民はあの二人がいなければ生きていけないだろう、そんな存在だ。
太陽は熱い、近づこうとは思っちゃいけない。そう、王子についてもそういうことだと私は解釈する。嗚呼、王子を越えるスーパー完璧なイケメンに惚れたい、そうすれば王子を忘れられるのに。


「名前、少し頼み事が…いえ、ノイシュを呼んできて下さい」
「お紅茶ですか?それなら私でも…」
「……」
 やってしまった。
「(うわあああああしまったああああ王子は私なんかじゃなくてノイシュの紅茶が飲みたかったのよなんでそれに気付けなかったの5秒前の私!!!!名前は本当に気を遣えませんねって言われる未来しか見えない私の淹れる紅茶はノイシュの足元にも及ばないもの本当にすみません王子…)すみません王子の言葉の意味にすぐ気付けなくて…今すぐノイシュを呼んできますので、少々お待ちください。では!」

ノイシュならこの時間帯は鍛練の休憩中のところだろう。呼べばすぐ来てくれるか…よし、急ごう。

「名前…!走ると転び、はぁ…言わんこっちゃない…」
「す、すみません…不肖名前、周りを見ず無様な姿を晒してしまい申し訳ないです…」
「貴女はそういうせっかちで周りを見ず行動してしまう癖を直しなさい。別に急ぎの用ではありません、分かっているのならさっさとノイシュの所へ行って下さい」
「次からは気を付けます…失礼しました」

また王子の前で無様な姿を晒してしまった…というか転んだ時スカートめくれてないよな…?タイツ履いてるからギリギリセーフだけど、王子からはどうやって見えたんだろう。恥ずかしい。
 王子のことだから後であんな無様な足を見せつけてくるなって言うぞ…王子は姫様で目が肥えてるんだよ!皆が皆が姫様みたいなナイスボディじゃないんだからな!太い足ですねとか言われるんだうわああ…辛い…
なんて考えてるうちにノイシュを見つけた、王子を待たせるのもあれだし早く用を済ませねば。

「ノイシュ、王子が呼んでる!多分紅茶淹れて欲しいんだと思う」
「名前か。分かった、すぐ行く。 …何か悲しいことでもあったか?」
「へっ!?いや、その…悩みがあるというか、なんというか…」
「私でよければ相談に乗るぞ?今はセルエル様の所へ行くから無理だが…」
「うぅ…ノイシュありがとう…お兄ちゃんかこのやろー…」
「名前みたいな出来た妹なら大歓迎だよ。それじゃあ、後でな」
「うん…いってらっしゃい…」

 なんだこいつ、イケメン過ぎか?ノイシュ顔もよくて性格よくて紅茶淹れるの上手いとか神か?二物どころか三物ある…惚れそう…
 まてよ、ノイシュに惚れれば王子のことをなんとも思わなくなるんじゃないか?いやでも、ノイシュとは長い付き合いだけど惚れてない。私は性懲りもなく王子が好きだ。よくよく考えてみればこの団に性格よしのイケメンなんて沢山いるじゃないか。なのに王子のことを好きなままってことは…私は一生王子のことを好きなままなのか…?くそっ!墓まで持っていく秘密がまた1つ増えてしまった…




あとがき
後編に続きます
タイトルはイギリスの小説家トーマス・ハーディから
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