「みここちゃん、遊びにきたよ」
「名前ちゃん! いつもありがとなのじゃ〜」
 私は今日もヘッドセットを付けて、彼女(彼?)に会いに来るのだ。

 バーチャルリアリティが普及し、誰もが電脳空間上にアバターを持つようになったこの現代。自分でアバターを作る為の環境とか、ヘッドセットとか、マイクとか、それらをお小遣いやアルバイトで稼いだお金を貯めて、ついこの間やっと揃えられたのだ。私の家は裕福って訳じゃないから、お母さんとお父さんに迷惑をかける訳にもいかないし、自分で揃えた。というか、自分で揃えたかったっていうのもあるけど。



 十年くらい前にある程度体系化されたVR技術は、ここ数年で更に一般化され私の学校でも去年から授業に取り入れられた。私がバーチャルリアリティというものに憧れを抱くようになったのはそこからだった。たまにお父さんが仕事でそういうことをやっているのは知ってたけど、お父さんの仕事用のパソコンだったし私は触らせて貰えなかったから、電脳空間もバーチャルリアリティも私にとっては縁遠い存在だった。身近な存在だと、テレビとかで流れてくる映像は基本電脳空間で撮影されてるらしいけど私が小さい頃の現実空間で撮影されてたものとあんまり変わりは無いし、それって結局VRの方が手軽で低予算でも高品質のものを作れるってことだから導入されたもので、多分当時の私には惹かれるものじゃなかったんだと思う。
 話がそれた。結局、私がバーチャルリアリティにのめり込むようになったのはビジネス情報管理とそれにおけるバーチャルリアリティ技術の活用を学んだからなんだけど、この授業を取ってよかったって思ってるよ。
 数十年前にバーチャルYoutuberってものが日本を初めとして大ブレイクして、そこから一気にバーチャルリアリティというものが注目され始めたんだよね。まあ技術が体系化されるまで大分時間はかかったらしいけど。
「みここちゃんはVTuberって覚えてる?」
「勿論なのじゃあ。わらわは“マスター”が作ったアバターをコピーして、それに人工の知能を搭載した言ってしまえばAIなんじゃが……まあわらわが生まれたのは色々な理由とか思惑とかあるけど、その始まりであるVTuberという文化を忘れる訳ないのじゃ!」
「そうだよね、うん。私もずっと覚えてるよ」
「今じゃVRは普遍化された技術なのじゃ。だからみんな当然遊ぶときは電脳空間だし、会社の会議も電脳空間だし、TV番組の撮影も電脳空間だし、昔と違ってVRというものは確実に人々の文化、生活の一部に根付いたものになりつつあるのじゃ」
 みここちゃんのアバターは、数十年前活動していた姿から殆ど変わっていなかった。テクスチャとか細かい部分は変わってるんだろうけど、基本的には私が憧れた、当時の姿のままなのだ。みここちゃんの声音はすごく楽しそうで、表情はいつもの無表情だけど、なんだか笑っているように感じなくもない。
「名前ちゃん? どうしたのじゃ?」
「ううん。なんでもないの」
 バーチャルYoutuberがブレイクして数十年。VR技術が一般にも普及しはじめて十年。私は貴方が語った夢に憧れて、この電脳空間にいるのです。
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