「指揮官様、ちゃあんと帰ってきてくれましたね。おかげでここが火の海にならなくて済みますわ〜」
「大丈夫だよ。私はちゃんと帰ってくるよ」
 上層部に呼び出され、会合に参加していた名前。やっとのこと帰ってきた頃には既に日付が変わっていた。重苦しいコートとジャケットを脱いで赤城に手渡せば手際よくクローゼットに仕舞ってくれる。いつもの光景だ。

「ねえ指揮官様、やっぱりこの匂いって……」
 赤城曰く、コートには何者かの匂いが付着しているらしい。それも滅多に変わらない赤城の表情が少し歪む程、不快なものだったと。嗚呼、これも以前と同じだ。
「うん。多分、会合で会った人の匂いじゃないかな」
「……指揮官様は赤城の言いたいこと、お分かりですよね〜?」
 赤城の言葉は優しげでも目は完全に笑っていなかった。以前似たような会合に呼び出された時、同じことが起きた。最初は困惑していた首筋に顔を近付けて念入りに匂いを確認する赤城のこの行為も、今の名前にとってはもう慣れてしまった"普通"の行為なのだ。
 平均的な筋力の女でほどけるかほどけないかという程度の力を込めて名前の腕を掴む赤城。仄かな恐怖心から来る本能なのか、じりじりと反対方向に後退する名前を見て赤城は目を細めた。
「指揮官様と赤城が愛し合っているのなんて私達には分かりきったことですけど、残念なことにそれを分からない方もいらっしゃいますわ……」
 赤城に気圧されていた名前は背後にあるソファーに気付かずにいた。一歩下がったその瞬間、ぶつかってバランスを崩し意図的では無いものの押し倒されたような形になってしまった。
 反らしていた目線も頬に添えられた手で強制的に固定され、見つめ合うしかなくなる二人。満足気な赤城とは対称的に、名前の額には一筋の汗が流れていた。数秒か、それとも何時間にも及ぶものだろうか?そう錯覚してしまうような居心地の悪い静寂が二人の間に広がる。赤城は居心地が悪いなんて微塵も思ってはいないだろうが。
「ごめんね、赤城。これも指揮官としての務めなんだ」
「指揮官様、私は指揮官様から意地汚い男共の匂いがするのが許せないのです……ああ、勿論女の匂いを纏わせるのもいけませんよ? 指揮官様は赤城の指揮官様でしょう……」
「大丈夫だよ。私は赤城の指揮官だから。私の帰る場所は、赤城のいるこの部屋だよ」


「だって……私の帰る場所は、此処しかないから」
「指揮官様の帰る場所は、此処以外ありません。だって、私が無くしたんですもの」
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