「アニラ様、お疲れさまです。羊羮をお持ちしました」
「おお!名前は気がきくの!」
「疲労回復には糖分をとるのが一番ですからね、ふふっ」
 そう言って茶と羊羮が乗った盆を縁側に座るアニラの横に置く。
 今日は修行の為早朝から山に籠っていたが、昼過ぎに帰ってきた。昼食の後片付けを終わらせ羊羮を冷やし固まるまでの時間はおよそ二時間。現在午後三時、所謂おやつの時間には間に合ったようだ。
 今日はいつもと趣向を変えてただの羊羮ではなくわらび餅入りの羊羮を作ってみた。見た目は普通の羊羮と変わりないが、饅頭の中の餡のようにわらび餅が入っている。
「それじゃあ、頂くとするかの」
「はい、召し上がれ」
 羊羮を一口大に切ったところでいつもと違う断面に気付き、これはなんだと名前の顔を見る。
「今日はわらび餅を入れてみたんです。お口に合うとよいのですが……」
「ふむ、なるほどな。まずは一口」
 味見はしたが何分初めてのこと故どんな反応が返ってくるかあまり予想がつかない。不味い、と言われることは代々この家系に料理番として仕えてきた一族のプライドから無いと思いたいが、はてさて。
「……美味い!」
「まあ、本当ですか!」
「我も菓子作りは一家言あるが、そなたの作る菓子は今まで食べてきたどんな菓子よりも美味い!」
「アニラ様にそこまで言って頂けるとは……流石に、その……照れてしまいます……」
 「これからも、我の為にその腕を振るい続けてくれるかの」
「はい、勿論です! 後十分程したら、皿を取りに参りますので……一旦夕飯の仕込みに戻らせて頂きますね」
 名前がそう言ったところで、アニラの顔が曇る。まるでこの場から離れるなと言いたげに。困惑する名前をよそにアニラは口を開く。
「そなた、今日は珍しくすぐ立ち去らないと思ったら……我との世間話に付き合う気は無いのか! 味の感想を聞いたらすぐに戻るとは!」
「も、申し訳ありません……!」
 眉を下げ明らかに反省した様子ではあるが仕事優先なのは変わらない名前にもどかしい感情を抱き、ため息を吐いて茶を煽るように飲む。
「ほれ、はよ二杯目を持ってくるのじゃ。ああそう、菓子と茶もう一つ持ってくるのを忘れるでないぞ?」
「おかわり、ですか……?」
「……ここまで言っても分からぬのか! 馬鹿者!」
「すっ、すみません……! すぐに持って参ります!」
 パタパタと小走りで厨房に戻る名前の背中を呆れ半分で見つめるアニラだった。
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