※色々捏造あさみちゃんと夢主のシェアハウス



 目覚まし時計が鳴る。目蓋は重く、力を抜けば今にもベッドに倒れ込みそうなものだが、お節介な同居人の存在を思い出し「まだ寝ていたい」と訴える身体に鞭を打ち立ち上がる。耳元で大きな声を出されるというのは中々辛いものがあるし、彼女のよく通る声がそれをまた助長させている。
 自室のドアを開けるとリビングの方から漂う朝食の匂いが鼻孔をくすぐる。多分、昨日食べたいと言ったフレンチトーストの匂い。思わぬサプライズに眠気も去った所で、既に朝食を食べ始めていたあさみに声をかける。
「おはよ」
「おはよう」
 用意された朝食を見て、ニコニコというよりニヤニヤという笑みを浮かべる名前に少し怪訝そうな顔をするあさみだったが、それを無視し「頂きます」と手を合わせる。卵と牛乳にしっかりと浸けられたパンは噛む度に程よい甘さと少々の香ばしさが口の中で広がる。メープルシロップなんて我が家にあっただろうかと考えるも、昨日の仕事帰りに買ってきてくれたのかと思うと、また笑みを浮かべる。
 メープルシロップを見て笑う名前を見て、疑問に思ったあさみは「ねえ」と声をかける。
「さっきからニヤニヤしっぱなしだけど、どうしたの?」
「あさみが私のリクエストに応えてくれるなんて珍しいなって」
「そりゃあ、たまには朝食のリクエストくらい……」
 普段は名前より先に起床したあさみが朝食を作っている、勿論献立はあさみが考えたものである。そもそも、あさみ曰く「栄養バランスを考えて献立を決めている」らしいから、リクエストを聞いてくれることすらなかった。そんな彼女が、私のリクエストを聞いてくれた。それがとても嬉しいのだ。
「ご馳走さまでした」
「あ、皿は私が洗っておくから」
「名前が?珍しい……明日は雨が降るんじゃない?」
 まあ、そう言いたくなるのも分からなくはないと自分でも思う。この朝食を作ってくれたお礼だ。
 少し冷めたコーヒーを飲み、最後の一口を食べる。コーヒーも私の好きな砂糖なしミルク多め、きっとあさみはいい嫁になる。

「それじゃあ、いってくるからね」
「ねぇ、あさみ」
 家を出ようとする彼女を見て、咄嗟に腕を掴んでしまった、自分でも理由は判らない。何故か、あさみがこのまま帰ってこないような、その背中がやけに遠くに感じたのだ。その事を伝えようと思ったものの、馬鹿馬鹿しいと首を振り、口を噤む。
「ちょっと?このままだと遅刻しちゃうんだけど!」
「ん、ごめん」
 大丈夫、ちゃんと帰ってくると脳内で反復する。何も心配はいらない。さっきのを口に出したら、あさみは「変な名前!」と笑うのだろうが。
 先程触れたあの手がやけに強く印象に残った。少し高めのハンドクリームを買って帰ると決め、玄関を後にする。

 家を出ようとする時、何故だか同居を始めたばかりのことを思い出す。あの時に比べればゴミはしっかり出すようになった、部屋の掃除も定期的にやるようになった、インスタント食品を食べる機会は減ったし食生活が改善されたからか肌も綺麗になった。まあ、私が少しずつ生活を改善しようとするのは「あさみに頼りっぱなしは申し訳ないから」という理由なのだが。
 きっと、あさみがいなくなったら元の生活に逆戻りだろう。だから、それまでは。

「いってきます」
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