三輪先生のツイートからインスピレーションを得て書きました


田崎先輩。甘いマスク、高学歴、人当たりのよい性格、手先が器用で手品が得意、紳士。その他異性にモテる要素諸々。鳩と戯れてる様子は王子様みたいだともっぱらの評判である。そんな完璧超人を絵に描いたような人と友人であることが自分でも驚きだ。田崎先輩にはとてもよくしてもらっている。道行く女性にたまに睨まれるのが面倒くさいが。
そんな田崎先輩にも欠点(と言って正しいのかは分からないが)はある。
天然、その一点に尽きる。砂糖を吐きたくなるようなゲロ甘い台詞も先輩なら違和感がない。それを天然でやってのける先輩。今まで何人の女性を落としてきたのかと思う。先輩が今まで落としてきた女性にいつ夜道で後ろから刺されるかといつもひやひやしている。

「それ美味しそうですね」
「一口食べるかい?」
「いやあの、そういう訳ではなくて」
「はい、あーん」
例としてはこのような。一口下さいというつもりではない。何気なく言った一言がこのような事を招いた訳だが、気を遣わせてしまって申し訳ないと思うと同時に「あーん」なんて恋人同士でも人前ではやらないだろうという。そもそも私と先輩は恋人ですらない。
思わせ振りな行動で期待させておいて実は只の友人としか思ってませんだとか、今まで田崎先輩に振られた女性達には同情の念すら浮かぶ。
「次来た時に注文するので大丈夫です、気を遣わせてしまいすみません」
「じゃあまたこの店に来ようね」
「…では、よろしくお願いします」
今日の支払いは私に払わせてくれるだろうか。女性に払わせるなんて男が廃るとは田崎先輩の言葉だが、流石に私から誘った時まで払おうとするとは思わなかった。その時は日頃のお礼をしたいと強く言ったら仕方ないという様子で私に払わしてくれた。以前、隙をみて先輩より早く会計に向かい金を払った時には苦笑された。「俺の顔を立ててくれてもいいだろう」と言う先輩に「たまには私の顔を立ててくれてもいいでしょう」と返した。こうも毎回のように奢っていて大丈夫なのだろうか?先輩の懐事情が気になる所存である。
「名前ちゃん、何か考え事?」
「田崎先輩について考えてました」
「へえ、どんな?」
「今まで後ろから刺されたことないのかなとか、懐事情とか、です」
「刺されたことは無いかな、流石にね」
「まあそうですよね。夜道には気を付けて下さい」
「名前ちゃんこそ気を付けてね、君みたいな可愛い子を狙う男は沢山いるんだから」
可愛いとかよく平然と言えるものだ。ただそれが不思議と下心などを感じさせないのが田崎先輩だ、天然の一言で済ませられる。
「分かりました。会計にいってきますね」
「ああ、いってらっしゃい」

「お待たせしました」
「お帰り」
私の前に立ちドアを開けてくれる田崎先輩。この人の一挙一動はいちいち紳士だ。先輩がモテる所以はこれを無意識的にやってのけることなのだろうと思う。
駅に向かう道の途中で先程から気になっていたことを尋ねる。
「こんなことを言うのもなんですが、今日は会計に行く私を止めませんでしたね」
「君の前でそれをやるのは無意味な行為だと分かったから」
「は、はあ…仰っている意味が私の頭では判断しかねますが、とりあえず田崎先輩の女性を期待させる行動が減るかと思い安心しています」
「期待してくれてたの?」
「期待するも何も、私と田崎先輩は先輩後輩。強いて言うのなら友人関係でしょう」

先輩が不意に近づいてくる。田崎先輩の普段の笑みはにこやか、爽やかと表現するのが相応しいと思っている。だが今の先輩の笑みは不敵な笑み、そう表現するのが正しい。

「そんな風に思ってるのは君だけだよ」
そう耳元で囁かれる。
「じゃあね、名前ちゃん」
今まで私が抱いていた像は脆くも崩れた。この雑踏の中、その一瞬だけ時が止まったような衝撃すら感じる。
そんなことを考えている内に、先輩はもう視界から消えていた。
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