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▼ Sane Kadsura / サネカズラ : 再会 1/2



翌日鈴さんに、万事屋の人に報酬を渡さなかったことを怒られてしまった。


「鈴さん、私万事屋さんがくるなんて聞いてないよ」

「あら、そうだったかしら?なまえ、悪いんだけど、万事屋さんまでお金渡しに行ってくれないかしら?そのまま上がっちゃっていいから、ね」


初老の鈴さんは、少しも歳を感じさせない可愛らしい笑顔で私の肩を叩く。そんな顔で言われたら、嫌なんて言えないじゃないか。
…そうして渡された名刺を基に、報酬の入った封筒を握りしめ、たどり着いた二階建ての家屋。
一階は「スナックお登勢」と書かれた看板が見える。その上に、大きく書かれた「万事屋 銀ちゃん」の文字を見て、私は静かに階段を登った。閉ざされた扉を二、三叩き、すみません、と声をかける。


「はい、今行きますー!」


この前聞いた声とは違う、やけに子供っぽい声が室内から聞こえたと思ったら、勢いよく戸が開かれた。


「あ、すみません。私、花屋のものでして、…銀時さんいますか?」


扉から出てきたのは、まだ10代と思わしきメガネをかけた少年だった。私を見るなり口をパクパクさせて、直ぐに我に返ったように私を室内へ入るよう促した。


「あの、銀さんはいまパチ…、ちょっと出てるんです。直ぐ戻ると思いますから、お茶でもしてってください」

「あ、そうなんですね。どうぞお構いなく」


そう言って微笑むと、そのメガネの少年は顔を真っ赤にして、台所の方へ引っ込んでしまった。

万事屋の室内は、思ったよりも整理整頓されている。机を挟んで青いソファが二つ。社長椅子と机、その上には大きな文字で「糖分」と書かれた紙が額縁に飾られている。ぼんやりと部屋を眺めていると、視線を感じた。そちらへ顔を向けると、赤毛のチャイナ服を着た女の子が私をじっと見つめている。


「お前、銀ちゃんのコレアルか?」

「へっ?」


ピッと小指を立てて、その女の子はニヤリと微笑む。私が違うと否定するより先に、先ほどの男の子がすっ飛んできた。


「神楽ちゃん!!!初対面の女の人にそんな失礼なこと言わないの!」

「子供できたから金よこせとかだったらどうするアルか?どんどん私たちの給料が先延ばしになるネ!芽は出た時点で摘んどくのが利口アル!」

「ちょ、なに物騒なこと言ってんのォォォ!?」

「あの、違います、だから摘まないで」

「ほらめっちゃ怯えちゃってるじゃんんん!!」

「孕ませた銀ちゃんも悪いアル!種も畑もなくなれば、こんなことにはならないネ!!」

「黙れェェェ!!!」


突然始まった二人の言い合いに私はおずおずと声をかける。何か大きな勘違いをさせてしまっている。大きな声で「あの!!」と叫ぶと、ようやく二人の顔がこちらに向いた。


「あの、違うんです。私この前銀時さんに依頼をした、フラワーショップ鈴のアルバイトの名字なまえと申します。今日は先日の報酬をお渡しにきたんです」


私の言葉にきょとんとした二人の少年少女。そこへタイミングよく居間の扉が開いた。


「ったく、クソガキ共、ギャーギャーうるせーんだよ。近所迷惑だろ、ちったァ考えろ」


気だるそうな顔で、二人を一瞥した銀髪頭の銀時は、私の顔を見るなりパッと笑顔になった。


「あんたはなまえ、っつったか。どーしたんだ、早々御依頼か?」

「いえ、先日の報酬をお渡しにきました。その節は大変失礼致しました」


報酬の入った封筒を銀時に手渡す。なぜか少し驚いたような顔で私と封筒を見比べる。何か変なことを言っただろうか。僅かに首を傾げると、神楽と呼ばれた少女がハッとため息をついた。


「こんなにデキた女が銀ちゃんのコレなわけないアル。新八、見る目ないなお前」

「いやいや、言い出したの神楽ちゃんでしょ。僕一言もそんなこと言ってないからね。…なまえさん、初めまして。僕ここの従業員の志村新八です。こっちは神楽ちゃん」

「わざわざご丁寧にありがとう。名字なまえです」


ペコリと頭を下げると、新八と名乗る少年はまた頬を赤らめて微笑んだ。神楽は私に手を差し出し「よろしくな、なまえ」とぶっきらぼうに言い放つ。私がその手を握り返すと、神楽ははにかんで笑った。


「お前、昼食った?」

「いや、まだです。用が済んだらとろうかと思っていたんで」

「んじゃ、金も入ったことだし、たまにゃファミレスでも行くか」

「えっ?」

「キャッホゥ!銀ちゃん太っ腹アル!」


そうして、有無も言わさずに、この不思議な万事屋の人たちと、お昼を共にすることになってしまった。




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