beniiro tear | ナノ


▼ Geranium / ゼラニウム : 予期せぬ出会い 1/1


私と彼の出会いはわざわざ取り上げて、人に話すようなことは何もない。
そんな、他愛もない出会い。
だけど私はその出来事を一生忘れることはないだろう。

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「どーもォ、万事屋でェーす」


花々が並ぶ店内に、気だるそうな声が響き渡る。今日は店長がお休みで、私が一人でこの「フラワーショップ 鈴」を任されていた。ここに勤めて早半年。常連様が多く、花の名前くらいしか覚えることのないこの店で、私が一人で店番を任されるのに、そう時間はかからなかった。そんな昼下がり、聞きなれない声に私は慌てて店前に駆け出した。



「あれ、御依頼人…鈴さんいるか?」

「いえ、店長は生憎お休みをいただいてます。何かご用ですか?」


依頼人?何のことだろう。鈴さんから何も聞かされていない私は、見慣れない銀髪頭のだらしのない顔をした男に首を傾げる。


「あ、いや。店の屋根直してくれって、鈴さんから連絡が」

「屋根?」


言われてみれば、その男の風貌。作業着と思わしき繋ぎに手には工具入れ、よく見れば胸には「万事屋」の文字がある。


「…万事屋、何でも屋さん?」

「そーゆうこと。んじゃ、直しちまうわ」


電柱を伝い、軽々と屋根に登った姿に思わず目を奪われた。「ここだな」なんて声が屋根の方から聞こえてくる。ものの数分で、地上に降り立った。


「ありがとうございました」

「鈴さんにゃ、店で報酬払うって言われてんだけどなァ」


えっ、そうなの?何も聞いていない私は、思わず狼狽える。いくら直してくれたとはいえ、屋根の修理なんて聞かされてないし、しかも何だかこの人怪しいし。お店のお金、勝手に渡していいものか…


「オイ、心の声ダダ漏れだっつーの!怪しくねェよ!あんた、俺のこと知らない?俺は坂田銀時、万事屋銀ちゃんて、ここいらじゃ結構知られてると思ってたけどなァ」

「ごめんなさい。知らないです」

「即答すんな!…まァいいや、報酬はまた別で貰いに来るよ。ところであんた、名前は?」

「…名字なまえ」

「なまえか。んじゃ、何かあったらここ電話しろよ。報酬さえ払えば、何だってやってやっから」


そう言って渡された名刺には、手書きと思わしき字体で確かに"万事屋 銀ちゃん"の文字があった。その下には丁寧に住所と番号が載せられていた。


「んじゃ、鈴さんによろしくな」


そう言ってスクーターを跨いで、銀時とやらは私に手を振りかぶき町の町へと消えていった。



「…変な人」


それが私の彼に対する第一印象だった。



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