beniiro tear | ナノ


▼ Echinops / エキノプス : 傷心 1/2



私は、ずっとこの気持ちを、忘れることができない。

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あの日から、早いことで一ヶ月の時が過ぎた。
何も変わらない日々。フラワーショップ 鈴で、鈴さんやお客様、花とともに日々を送る毎日。あれから十四郎から頻繁に連絡が来るようになったことくらいで、私の毎日は銀時に出会う前に戻っただけだった。


「こんにちは。なまえちゃん、今日はユリを包んでくださる?」

「こんにちは、山田の奥様。ちょうど飛び切り美しいユリが入ったんです。すぐに準備しますね」


常連様と他愛のない会話をしながら、花を包む毎日。私は花が好きだし、上品なおば様たちと話す時間も好きだ。だから仕事の時間はいつも楽しく過ごせている。


「なまえちゃん、何かユニークなお花を探しているの。何かないかしら」

「ユニークなお花ですか?そうですね…」


山田様のそんな珍しい注文に、店内を見渡す。
…ユニークなお花か、何かいいのがあるかしら。
そうして目に付いた花を山田様に差し出した。


「このお花、如何ですか?」

「あら、確かにユニークなお花ね、名前は何て言うの?」

「ルリタマアザミ、という名前です。洋名は、確かエキノプス…だったような」


珍しそうな顔で、紫色のルリタマアザミをチョンチョンと指で突く山田様に、思わず頬が緩んでしまう。


「何だかトゲトゲしていて可愛いわね」

「ええ。確か花言葉も、それに由来して…傷心、と…」


そこまで言って、私は言葉を止めてしまった。
…傷心。傷つく心、か。まるで今の私ではないか。
確かに私は、まるで銀時に出会う前と同じ毎日を過ごしている。それでも、心だけは、銀時出会う前のようには戻ってくれないのだ。何度も忘れようとしたけれど、それは叶わなかった。忘れることができないならとその心に蓋をしたのに、こうやって不意に思い出しては、苦しくなる。
山田様に名前を呼ばれたところで、我に返った。


「この花はあまり人に送る花には向いていません。ですから、今日は予定通りユリになさったら如何ですか?」

「あら、そう?あなたが言うなら、そうするわ」


上品に笑う山田様に、私も笑って誤魔化して、急いでユリの花束を包んだ。




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