▼ Kosmos / コスモス(茶) : 恋の終わり 1/3
あれから私はどうやって眠りについたのか覚えていない。寧ろ、寝ていたのかすらわからないままに朝を迎えた。
目を覚ますと、心にぽっかり穴が空いたように、虚しさだけが残っていた。気を緩めると、また涙が溢れてしまいそうなほど、私の心は壊れてしまっていた。
それでも今日は仕事が入っているし、いつまでもこうしてはいられない。すぐに支度を済ませて家を飛び出した。
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「なまえ、おはよう…ってあんたクマがすごいじゃないの。昨夜夜更かしでもしたのかい」
心配そうに私の顔を覗き込む鈴さんに、私は何も答えずに肩を竦めて笑った。それから珍しく息つく暇もなく、お客さんの対応に追われた私たちは、休憩も取らずに店内を駆け回っていた。…昨日あまり寝ていないせいか、頭がぐるぐると回る。
「なまえ?どうしたんだい、顔真っ青だよ」
「うん、…大丈夫、ごめんなさい」
そう言って鈴さんの方へ振り向いたはずだったのに、私はそのまま倒れてしまったようだった。驚いた顔で私に駆け寄る鈴さんをぼんやりと見つめながら、そのまま意識を失った。
・・・・・・・
気が付くと私の視界いっぱいに、ふわふわとした白い何かが動いている。
ぼんやりとした意識のまま、そのままふわふわを触ると、そのふわふわが振り返って私に微笑んだ。
「万事屋さん」
どうやら私は銀時におんぶをされているようだった。笑った銀時は、何も言わずに前を向き直った。ふと、あたりを見渡すとコスモスが綺麗に咲き誇っている。赤やピンク、白の色とりどりのコスモスの畑に、私の頬は思わず緩んでしまう。
…でも、コスモスは秋の花なのに、なぜ。
そう思った瞬間、綺麗に咲き誇っていたコスモスは全て茶ばんだ色へと移り変わる。
…チョコレートコスモス?これって、確か、
「もう飽きた」
私をおぶっていたはずの銀時は、いつの間にか、冷たい眼差しで私を見下ろす。その瞳に捉えられた私は、遠ざかる銀時の背に向かって声を上げた。
「万事屋さん、…待ってください、私、…私っ」
・・・・・
バチッと開いた視界に飛び込んできたのは、ぼんやりと浮かぶ白い世界。
…ここは、病院、か?
ふと自分の左手に刺さる点滴を見つめて、すぐに自身の右側に視線を移す。まだはっきりとしない視界に映った人の影に、私はぼんやりとした意識のまま、思わず口を開いた。
「……万事屋さん?」
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